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コラム

パールジャーナル ー 真珠と持続可能性

持続可能性、サステナビリティ、SDGS・・・最近はもう右を見ても左を見てもこれらの単語が目に入りますね。宝飾業界も例外ではなく、特に欧米を中心に大手宝飾店や宝飾メーカーは色々と動いています。「綺麗だから購入する」というシンプルな市場から、購入する大義名分が必要とされてきています。「合成ダイアモンド」はそのプロモーションに、「地面を掘って地球に負担をかけることもなく、採掘や流通で人権を侵す心配も何もない」というSDGS的なアプローチを行っています。「大量に使う電気はどうなの?」と突っ込みたくなるのは筆者だけかな?さて我々の真珠。真珠はシンプルで、「美しく豊かな海がなければ真珠養殖を行えない」という大前提があります。どうあがいても自然との共存共栄が大前提ですから、真珠養殖産業の持続可能性は環境保全などが絶対条件。では具体的にはどの様な活動がこれまで行われて、そして変わりゆく市場の中でさらに何が必要なのかを考えてみたいと思います。
真珠養殖で排出されるものとしては、貝からの排泄物、貝掃除からの付着物等の有機物、そして浜揚げ時の貝殻や貝肉といったところです。貝からの排泄物は、大量生産時代には大きな問題になりました。海底に堆積して酸欠を引き起こし、さらに悪化した時には硫化水素などの発生につながっていました。しかし、かつては全国で4000を超えた養殖業者数も、水産庁によれば現在は三重県254,愛媛241,九州116と、(悲しいことですが)断然少なくなっています。この点では自然への負担は大幅に減少する結果に。浜揚げ時の貝殻は、ボタンなどの原料としてほとんどが回収されています。また貝柱は、みなさんご存知のように冬の珍味として流通しています。問題は貝掃除から排出される有機物や浜揚げからの貝肉。
実は、これらは昔から農業に活用されていました。多くの養殖場には畑があり、そこの肥料としてこれらは活用されてきた歴史があります。こう考えれば、海女漁と同じく真珠養殖はかなり持続可能性に配慮された産業ともいえます。しかしながら、現在ではすべてを有効活用していない点などは強力なPRにつながりません。さらに問題は汎用性。これら有機物は当然腐敗臭を伴いますし、大量の水分を含んでいますので運搬も容易ではありません。ミキモトでは自社の養殖所内に専用の施設を作って堆肥を作っていますが、広域で活用などはされていませんでした。
そこで、2019年から三重県の片田地区では日本真珠振興会の次世代中核的人材育成事業を活用して堆肥をつくる取組をスタートしました。この時は失敗しましたが、そこから温度、容器の選出、混ぜ合わせる材料などに試行錯誤を繰り返して、ようやく貝肉から作る堆肥「パールコンポスト」の製造マニュアルが出来上がりました。現在では「次世代人材育成事業」と水産庁の「広域浜プラン実証調査事業」を活用して、三重県や志摩市の協力のもとに神明、立神、片田、和具、越賀の5カ所でこのパールコンポスト製造に取り組んでいます。
このパールコンポストは発酵を経て匂いもなく、水分も抜けているので手軽に扱えます。農家だけではなく一般の家庭でも簡単に使える堆肥です。志摩市では駅前の花壇や観光農園などへ散布を行っていますし、「使いたい」との声も広がっています。真珠の持続可能性PRへの強力な材料になると思います。これらの活動等はしっかりと説明したいのですが、文字数がここに書くには多すぎますね(苦笑)8月31日から東京ビッグサイトで開催されるジャパン・ジュエリー・フェアに三重県真珠振興協議会で出展し、このパールコンポスト(実物)や活動などの資料を紹介する予定です。筆者も現場に立っておりますので、興味のある方はお気軽にお立ち寄りください。

志摩市観光農園にて散布の様子

パールコンポスト