レポート

一般に“スポット”呼ばれる加工キズの分類と劣化についての考察 (2019年宝石学会発表および追加実験結果)

アコヤ真珠の大部分は、一般に様々な加工が行われてから市場に流通する。その加工工程のひとつである漂白にて、加工キズと呼ばれる“ひび”や“スポット(白斑)”などが発生することがある。これらの加工キズは、真珠を急激に劣化させる可能性があることから、かつて真珠を輸出する際に行われていた検査でチェックの対象とされていた。また、加工キズは通常の光では見えづらく、強い光を当てて検査が行われる。しかし、スポットに対する見解は取り扱う業者により異なることも多く、中には経年劣化しないものがあるという話を耳にすることがある。
今回、加工キズの中の“スポット”について形状から以下の4つに分類、構造を観察分析し、温度サイクルによる加速試験を行った。
①円形内部に放射状の亀裂をもつもの(図1):典型的なスポット
②円形状の輪郭のみのもの(図2)
③中心に異質層がみられるもの(図3)
④ひびのみが集中しているもの(図4)

図1 典型的なスポット

図2 円状の輪郭のみ

図3 中心に異質層

図4 ひびが集中

まず、各スポット箇所を切断し、断面薄片試料を作製、顕微鏡で拡大観察した。

①典型的スポット
円形内部に当たる箇所の表面から70μmほどに黒色層があり、円形外周部と中心部の黒色層から表面に向かって黒色部が見られた(図5)。また、この黒色層を電子顕微鏡で観察したところ、真珠層構造ではない異質層と亀裂が確認できた(図6)。


図5 典型的スポット断面

図6 図5矢印箇所の電子顕微鏡画像

②円状の輪郭のみ
円形内部に当たる箇所の表面から150μmほどに黒い層が見られた(図7)。


図7 円状の輪郭のみ

③中心に異質層のあるスポット
中心深部に異質層が見られ、その周辺は黒く、一部明確な線状となっていた(図8)。


図8 中心に異質層のあるスポット

④ひびが集中
深層部に黒色層と表面に向かって線状の黒色部が多く見られた(図9)。


図9 ひびが集中している真珠断面

これまでの報告通り※スポットは、加工工程で真珠層内部の異質層等脆弱な箇所に亀裂が入り、亀裂から表面までの真珠層にストレスがかかったため、ひび等が発生したと考えられた。

これら4種のスポットを5℃(冷蔵庫)70℃(恒温槽)の温度サイクルで加速試験を行ったところ、30サイクルでは大きな変化が見られなかった(宝石学会報告時)が、徐々にスポットが鮮明になり、100サイクルでは①~④のサンプルすべて通常光でも確認できた。これは亀裂が大きくなるなど劣化が進んだと考えられた。


図10 室内灯のみで撮影したスポット
※「真珠メンテナンス論序説」真珠科学研究所 小松博 著 1998年