レポート

真珠のテリ測定とグレーディングへ応用の試み(2019年6月宝石学会発表)

1.はじめに
真珠の品質要素の中で最も重要とされる「テリ」は、真珠光沢や輝き、内部の干渉色と定義され、各社ごとに熟練者の目視評価で判別されている。しかし真珠の「テリ」が表面反射である「光沢」と表され、干渉色は真珠の色として色素由来の実体色と混同されていることも多い。
本研究では真珠の「テリ」を科学的特質に則して測定を行い、客観的評価の実現を目的にした。

 

2.真珠の「テリ」とその評価の変遷
真珠は微細な真珠層構造を持ち、球体という形状であるため、ホワイト系真珠を通常光で観察すると(図1)、真珠に光源像が映り、その周りに干渉色が発現している。テリの強い真珠は、その光源像が明るく鮮明に映り、干渉色は鮮やかである。しかしテリの弱い真珠では、光源像は暗くぼやけて映り、干渉色は弱い。


図1 通常光、白布の上の真珠
左:テリ強、右:テリ弱

このテリは真珠検査所発足当時(1952)、“つや”として表され、干渉色のピンク、グリーンは色相の中で実体色のイエロー・ゴールドと一緒に表されていた。また、国立真珠研究所報告(1956~1978年、全22巻)の報告の中でも、多くは真珠検査所と同様、干渉色と実体色が一緒に扱われていた。その他、テリの目視評価は2題、和田浩爾の報告5題では光沢計を使用して測定していた。
その後、テリを光源像から測定する方法として、1986年熊本大学の相沢貞蔵の報告※1があり、1997年当研究所では、その方法理論を継承した光源像の輝度と拡散値から測定する方法を発表した。また、2011年に豊橋技術工科大学の中内茂樹らが光源像の輝度のヒストグラムからテリを算出する方法※2を発表している。
テリを干渉色から測定する方法は2014年に当研究所が発表した※3。

※1「真珠の光沢」光学、1986、
※2「真珠品質計測システムの開発」2012
※3「表面に現れる干渉色の色彩分析による新たなテリの強度測定についてのアコヤ真珠での試み」小松博ら、宝石学会2014

 

3.テリの測定方法
前項で述べたように真珠のテリは、ⅰ)真珠に映る光源像の明るさ、鮮明さ、ⅱ)真珠に現れる干渉色の色相、彩度、明度の三属性、で表すことができる。当研究所のテリ測定は以下のように行われる。
ⅰ)光源像測定
他の光を遮断し真珠に一定の光を当て、その光源像の輝度を測定する(図2)。得られた輝度曲線の高さ(輝度)と半値幅(拡散度)よりテリの数値を算出する方法である。テリの強い真珠は、輝度が高く、拡散度が小さい。この輝度による測定は熟練者の目視判別に比べ判別段階が少ないが、一般的な感覚に近い※4。

図2 真珠に映る光源像(左)とその輝度曲線(右)
矢印:測定方向

ⅱ)干渉色分析
真珠に発現する干渉色は拡散光源に接触させることで、反射と透過の干渉色模様が観察できる(図3下段)。この時、目線と真珠表面の角度により発現する干渉色が決まるため、同心円状の色模様となる。また、ダイクロイックミラー※5効果により、対応する透過と反射の干渉色は補色となる※6。テリ強中弱の真珠を拡散光源に接触させると(図3)、発現する干渉色の色相(多色さ)、彩度(鮮やかさ)、明度に違いが現れる。これらの現象を数値で表すことでテリの測定が可能になった※3。

図3 上段:通常光でみたテリ強、中、弱の真珠、下段:拡散光源に接触させた真珠

※4 「アコヤ真珠のテリについての (1)光輝値測定、(2)反射干渉光評価、目視評価の比較研究」田中ら、2010、宝石学会
※5 非金属多層膜干渉フィルターで可視光線の一部を選択的に反射し、残りを透過させる性質のもの、「光学の知識」山田幸五郎著、電機大出版社、1966より
※6 「真珠のテリ測定に関する研究Ⅰ」小松博ら、宝石学会誌Vol.31,2014

 

4.商品連の測定
まず、RG系の5段階に判別したマスターパールを作成した(図4)。その測定値より、輝度は90以上と90以下で分けられることがわかった。輝度90以上、干渉色分析値が200以上をテリランク2、輝度100以上、干渉色値400以上をテリランク1とした。また、輝度が100以上で干渉色分析値300以上の範疇と輝度90以上で干渉色分析値400以上の範疇を検討領域として連材を測定した。今回、商品連は中心部20個を測定した(図5)。また、これらの数値は、現在の測定条件による。
測定した商品連No.1では、輝度は20個中18個の珠が100以上であり、干渉色分析値では9個が400以上、18個が300以上に入る。検討領域を入れるとテリランク1と評価できる。No.2は、19個が輝度90以上、18個が干渉色分析値200以上でテリランク2と評価できる。No.3は、輝度は16個が90以上だが、干渉色分析値は18個が200以下であり、テリランク2には入らない。

図4 5段階のマスターパールと測定値

(ピンク:テリランク1、黄色:テリランク2、青:検討領域)

図5 連材3本(No.1~3)と測定値

 

5.まとめ
輝度、干渉色分析値を測定することでテリの判別は可能であることがわかった。ただし、真珠は生物生成物であるため均一ではなく、同一の真珠連でも測定値の分散度は大きい。テリの判定をする際、平均値、分散度などどのように考えていくかなどの検討課題がある。