シロチョウ真珠は、インドネシア以南の赤道付近に生息しているシロチョウガイを用いて養殖されている。また、ゴールドリップ系シロチョウガイから産出されるゴールド系シロチョウ真珠は近年生産量が増加している。そのゴールド系シロチョウ真珠の中で、ごく少量ではあるが褪色したという経験があった。今回、その褪色のメカニズムを観察分析するとともに、褪色を防ぐ方法について考察した。
真珠の褪色には2つの要因があるとされている。含有色素の変化による褪色と、内部に発生した亀裂により光が散乱して起こる褪色である。まず、色素の変化を調べるため耐光試験を行った。
1.耐光試験※1
試料真珠として、日本、ミャンマー、インドネシア、フィリピンの産地がはっきりしているゴールド系シロチョウ真珠1(図1)を用意した。各地の中で色の濃い珠と薄い珠をそれぞれ1pcずつ用意し、
各試料を半分に切断し試験試料と対照試料とした。変化は、目視と分光反射率で評価を行った。
その結果、ブルースケール5級変化で、試料真珠の褪色は見られなかった。
図1 耐光試験用試料真珠1と試験前後のYI値※2
2.構造観察
暗く緑味の強いゴールド系真珠の一部で褪色が起こった経験から、構造観察をするにあたってはこのような試料真珠2(図2)を選別した。選別した真珠は、レントゲン検査の後切断し構造を観察した。
切断した真珠の中に、大きく稜柱層等が発達した真珠(図3)が1個あり、これをさらに詳しく観察した。真珠は表層部に薄く真珠層が巻いており、ほとんどが稜柱層等の異質層であった。真珠層と異質層の境界部は大きく割れており、その他にも大小さまざまな亀裂があった(図4)。これらの亀裂が、褪色に繋がるのではないか、と推定できた。レントゲンでは有機質層や大きなワレは確認できたが、これらの異質層は確認できなかった。また、試料真珠の緑がかった色は、色素由来の実体色の他に微細構造由来の干渉色もあり、目視の色味だけでは判別がつかないことも分かった。
図2 試料真珠2(構造観察)
図3 稜柱層等が大きく発達した真珠 図4 図3真珠表層部拡大
3.真珠の中に稜柱層が発達する要因
稜柱層が発達する要因を調べるため、ゴールドリップ系シロチョウガイを20度ごとに7つに分け(図5)、ゴールドリップ部の濃さや幅を観察した。その結果、No.3~5の部位は、色も濃く、ゴールドリップの幅も広かった。ここは、真珠を養殖する際、ピースとして外套膜片を切り取る場所に当たっている。また、各箇所の稜柱層~真珠層の境界部を観察すると、小さな柱状構造と真珠層が混ざった“混在層”があることがわかる。この混在層はやはり、No.3~5の部位で幅が広いこともわかった。混在層(図6,7)は、色素が濃く、蛍光が強いという特徴があった。2で観察した真珠を再度観察すると、異質層の中に稜柱層と混在層(図8)があり、貝殻と同様の構造であった。
図5 観察部位 図6 貝殻表面
左:稜柱層、右:真珠層 中央:混在層(黄色矢印)
図7 貝殻断面混在層付近 図8 図3の真珠内部拡大
青矢印部:混在層、小さい稜柱層
黄矢印部:稜柱層
養殖業者にピースを切り取る位置について伺ったところ、稜柱層を分泌する箇所は省くものの、外側の方がよりゴールド色の濃い珠になるため、できるだけ外側を切り取る、とのことであった。このことは、混在層を分泌する箇所を含んでしまう可能性があることを示唆している。
まとめ
ゴールド系シロチョウ真珠は、色素の変化による褪色ではなく、稜柱層や混在層が劣化することで発生する亀裂によって褪色する可能性が高い、ということが分かった。混在層の存在は、目視では判別しづらいため、今後もピース切り取り位置と生成真珠の関係など、養殖場と連携して分析を進めていく必要がある。
※1 耐光試験:JIS規格 L 0841「日光に対する染色堅ろう度」
変退色の等級判定に用いる標準青色染布(ブルースケール)を半分覆い、試験片と一緒に露光し、ブルー
スケールを一定のレベルまで褪色させる(図9)。この時のサンプルの褪色度合いを比較することで堅ろう
度を評価する。
図9 褪色させた後のブルースケール
※2 YI値:JIS規格K7103「プラスチックの黄色度」より