レポート

「サンゴを核に使用した養殖アコヤ真珠の特徴と鑑別の試み」2017年宝石学会発表

真珠養殖は一般に核とピース(外套膜の切片)を貝の体内に入れて真珠を作ります。この核には“ドブガイ”と呼ばれる貝を球形に加工したものが使用されます。“ドブガイ”とはイシガイ科カワボタンガイ亜科に属する淡水産二枚貝の総称であり、その中でもアメリカのミシシッピー川に生息しているものが真珠養殖用の核に適しています。
この核にドブガイではなくサンゴを用いた真珠があります(図1)。このような取り組みは御木本幸吉の時代に半形真珠で行われており、1990年代には一部の業者でサンゴを核にした真円真珠の養殖が実験的に行われました。

図1 サンゴ核真珠
2つの代表的な海の宝石を組み合わせたこの真珠は、サンゴの色調が真珠層を透して見えるため、赤みを帯びた色調を持つという特徴があります。しかし、核となるサンゴの表面を全て真珠層で覆ってしまうため、この赤みを帯びた色調が核のサンゴに由来することの証明が難しいという問題があります。そこで、本発表ではこの証明の可能性について探ってみました。

まず初めに、サンゴの特徴についてまとめました。
サンゴでは一般に表面に縞模様が観察されます(図2)。この縞模様は、サンゴの鑑別を行う上での手掛かりの一つとされています。また長波長の紫外線を照射すると、薄紫色の蛍光を発するという特徴もあります(図3)。反射分光スペクトル測定では、今回観察した試料において共通して390nm、500nm、530nm付近にそれぞれ吸収が確認されました(図4)。

図2 サンゴ核表面

図3 サンゴ核蛍光

図4 サンゴ核の反射スペクトル
これらの特徴について、真珠層に覆われた状態ではどのように変化するか調べました。表面の縞模様および蛍光は、表面が真珠層で覆われてしまうため確認できなくなりました。反射分光スペクトルは赤い色調が濃く出ているものに限りますが、500nmと530nmでほぼ一致した波長に吸収が確認できました(図5)。

図5 サンゴ核とサンゴ核真珠の反射スペクトル
次に、実体色に赤い色調が出るという点で特徴が共通する“調色したアコヤ真珠”と比較しその違いを調べました。
穴口より内部の核を観察するとドブガイ核では白色、サンゴを核に使用した場合では赤色であることが確認されました(図6)。光透過法による観察ではドブガイ核と比較してサンゴを核に使用した場合には、透過光が暗く赤色を帯びることが確認されました(図7)。拡散光源に接触させて観察した干渉色では、透過の干渉色に核の影響と考えられる赤い色調が外縁部分に強く表れることが確認されました。


図6 上:サンゴ核真珠の孔口 下:ドブガイ核真珠の孔口


図7 光透過法でみた 上:サンゴ核真珠 下:ドブガイ核真珠

最後に穴口より核の粉末を採取して分析を行いました。
ドブガイは積層構造をしたアラゴナイト、サンゴは特徴的な構造を持たないカルサイトによりそれぞれ構成されています。電子顕微鏡にて採取した粉末を観察したところ、ドブガイで積層構造が観察され、サンゴでは特徴的な構造は確認できませんでした。(図8)
次に顕微ラマン分光による測定を行いました。この測定においても採取した粉末の状態でカルサイトとアラゴナイトの違いが確認できました(図9)。


図8 上:ドブガイ核粉末 下:サンゴ核粉末



図9 顕微ラマン分光 上:サンゴ核粉末 下:ドブガイ核粉末

【まとめ】
サンゴを真珠の核とした場合その表面は真珠層で覆われるため、一般の鑑別方法では核がサンゴであることの証明が困難です。また、現時点ではサンゴ固有の特徴は発見されていないため、特定の分析結果だけで断定することはできません。
今回の観察・測定より以下の点を確認することが判定に有効であると考えられます。その上でこれらの複数の結果から、総合的に判別することが必要と考えます。

・ 孔口から核の色調が赤いことが確認できること
・ 光透過法及び透過の干渉色で赤い色調が強く確認できること
・ 採取した粉末が積層構造としていないこと
・ 採取した粉末からカルサイトであることが確認できること
・ 色調が濃いものに限り反射分光スペクトルにて特定の吸収が確認できること