レポート

例外的にみられた「干渉色」と「輝度」の関係性について ー 2018年6月宝石学会発表

1.はじめに
真珠のテリは「干渉色」と「輝度」の2つの要素から構成されている。真珠の干渉色は透過の干渉色と反射の干渉色が同時に発現し、暗室で真珠に直接拡散光源を接触させると、上半球に透過の干渉色が、下半球に反射の干渉色が現れる。そしてこの反射の干渉色の色相の多色性、鮮やかさ、明るさとテリとは相関しているということがこれまでに報告されている(阿倍ら;宝石学会,2012、小松ら;宝石学会.2014)。
当研究所では目視でテリは良く見えるが干渉色の発現が弱い真珠を入手した(図1)。そのネックレスは反射の干渉色の発現が出ている真珠と出ていない真珠とが混ざっていた。そこで輝度は高いのに対し干渉色の発現が弱い現象についての原因を調べることを目的とした。方法は干渉色分析値・輝度分析値を測定し(マルガリータ285「研究発表」参照)、電子顕微鏡による結晶構造解析を行った。

図1 試料写真

 

2.干渉色分析値・輝度分析値測定結果
入手したアコヤ真珠のネックレス全ての珠について輝度分析値と干渉色分析値の測定を行った。その結果干渉色分析値は高い値で400点以上、低い値で50点以下の値が得られ大きな差がみられた。それに対し輝度分析値はほとんどの珠が100前後の値を示していた(図2)。輝度分析値が高いにも関わらず干渉色分析値が低い珠が存在し、目視と同様の結果を示した。

図2 干渉色分析値・輝度分析値測定結果 ◆干渉色分析値 ×輝度分析値

 

3.電子顕微鏡による結晶構造の比較
前述の実験の結果から干渉色分析値・輝度分析値ともに高い値を示す珠(A)と、輝度分析値は高いが干渉色分析値の低い珠(B~H)を選出し結晶構造の比較を行った。真珠のテリに影響を与えると考えられている表層から100m1),2)までを観察したところ、結晶層に大きな乱れや異質層の存在は観察されなかった(図3)。しかしながら、10mごとに結晶の厚さの平均値を調べると、①結晶層の厚さが均一ではないこと(図3D)、②0.3m未満の結晶層が含まれていること(図4)、③0.5m以上の結晶層が積層している(図3E)という3つの特徴が見られた。

図3 各サンプルの結晶構造

図4 0.3μm未満の結晶層

結晶層の厚さから発現する干渉色の波長を求めると、結晶層の厚さが不均一な場合様々な色の干渉色の波長が求められた(図5)。また0.3m未満の結晶層からは可視光外の波長が求められた。干渉色は同じ波長の光が互いに強めあって発現するため、このように異なる色や可視光外のものが重なりあうことで干渉色が強調されず見えづらくなっているという可能性が考えられる。また、0.5m以上の結晶層が積層すると赤外部の波長を示し、可視光内の波長に収まるためには次数が高くなる。干渉色において次数が高くなるとテリが悪くなるとの報告もされており(和田;真珠の科学,1999)、このことが干渉色の発現を弱めている可能性が考えられる。

図5 結晶層の厚さと発現する干渉色の波長(n=2の場合を示している)

参考:新版 色の常識 第2版:川上元郎、小松原仁

 

4.まとめ
真珠のテリに影響を与える要因としてピース・母貝の形質や貝掃除などによる人為的な刺激、環境の変化などが報告されている。テリに影響を与える結晶層の領域から考えると、今回の試料を形成した要因としては貝掃除などによる人為的な刺激、環境の変化などが考えられる。養殖業者の方に貝に影響を与える海況の変化を伺ったところ澄み潮が入ったり、長期の雨によって川から濁り水が入ると貝が弱ってしまう原因になるとの話を伺った。そのような海況の変化やそれに伴う漁場移動などによる貝への負担が今回の試料を形成した要因の可能性が考えられる。しかしながら結晶層の厚さと海況の関係は未だ不明な点が多く、更なる研究が必要である。
今回の実験から結晶層の形成は整然と積層しているが、厚さが不均一に積層することや可視光外の波長を示す結晶層が積層したという条件がそろった場合に輝度は高いが干渉色の発現が見えにくいという現象が見られるということがわかった。今後はこのような珠の出現率や結晶層と海況の変化の関係(黒潮や水温等の影響など)を調べていきたいと考えている。

参考文献
1)和田浩爾「真珠形成機構の生鉱物学的研究」国立真珠研究所報告8:1962; 948-1059
2)内田洋一、上田正康「真珠の層状構造とiridescenceに就いて」生理生態1-3,171‐177