真珠科学研究所創設者である小松博氏が2019年4月に講演依頼を受け、作成したスライドがあります。「50余年の研究から得た“我が真珠”とは」という表題でした(図1)。大まかな流れを伺いスライドを作成しましたが、当日は、全くスライドとは別の話をされていました。今回は、そのスライドにもある、小松博氏の研究内容をいくつか紹介したいと思います。
図1 当時のスライドの表紙
M社の真珠研究室に在籍中、貝塚から出土した真珠の判別など、様々な研究が行われてきましたが、小松博氏の大きな研究成果のひとつが、クロチョウ真珠と銀塩処理された黒色真珠の判別法の発見ではないでしょうか。
1970年代、沖縄の琉球真珠にてクロチョウ真珠の養殖が成功しました。しかし、それ以前から市場では銀塩処理されたシロチョウ真珠が“黒真珠”として流通していました。日本のお土産として養殖クロチョウ真珠を購入した訪問者が、自国に帰って鑑別を依頼したところ、「着色真珠」と判別されてしまったとのこと、クロチョウ真珠養殖の成功と、その判別法を世の中に知らしめることが急務となったのです。
まず、クロチョウ真珠と銀塩処理真珠を並べて赤外カラーフィルムで撮影すると、クロチョウ真珠は青みが増し、銀塩処理真珠は黄みが増して写ることを発見しました(図2)。このことを学会誌等に発表し、当初の目的を達成しました。
図2 上:クロチョウ真珠(左)と銀塩処理真珠(右)
下:上の真珠を赤外カラーフィルムで撮影した画像
その後、強い光を当てるサーチライト法による判別や、分光光度計によるクロチョウ吸収の発見※と、繋がっていきました(図3)。分光光度計による吸収の確認は、現在も多くの鑑別機関でクロチョウ真珠の判別に利用されています(図4)。(小松博共著「ニッポンの真珠はいちばん美しい」に本人による説明が載っています。)
図3 上:クロチョウ真珠(左)と銀塩処理真珠(右)
下:上の真珠に強い光を当てた画像(銀塩処理真珠は褐色に映る)
図4 分光光度計による分析
上:可視部(400~700nm)のみの測定
下:250~780nmの測定
※宝石学会誌1978,Vol.5,No.4,「ブルー系、ブラック系真珠の鑑別についての一考察」