レポート

「50余年の研究から得た“我が真珠”とは」より ― 2

1987年に真珠科学研究所をスタートさせた際、小松博氏が目標としていたことは以下の3つです。
1. テリの良い真珠をつくる
2. テリを客観的に評価する
3. テリを持続する
ここからは、真珠で一番大切なのは“テリ”である、ということを最重要と考えていることがわかります。その3つの目標を掲げて研究を続け、その成果が現在の真珠科学研究所の基礎となっています。
この目標2に繋がる、いわゆる真珠の「オーロラ効果※1」の究明は、小松博氏の大きな研究成果となりました。

 

当時、真珠のテリの研究を続けていて、テリの良い真珠には干渉色が鮮やかに現れているということはわかっていましたが、ホワイト系アコヤ真珠とクロチョウ真珠の干渉色の現れる場所が異なることは不思議に思っていました(図1)。


図1 テリの良いホワイト系アコヤ真珠(左)とグリーン系クロチョウ真珠

アコヤ真珠の干渉色は光源像の周りに、クロチョウ真珠は真珠の周縁部に現れる

 

また、真珠層構造の結晶層(図2)がどれくらいの厚さで積み重なっているかによって現れる干渉の色(構造色)が変わります。しかし、図1の干渉色がピンクグリーン系のアコヤ真珠とグリーン系のクロチョウ真珠の断面を電子顕微鏡で観察すると、結晶層の厚さはほぼ同じでした※2

図2 真珠層の断面の電子顕微鏡画像(5000倍で撮影)

 結晶層一層一層が確認できる画像で、結晶層の厚さを測定し平均値を算出した

 

いろいろな先生方を訪ねてこの現象の要因を聞いていましたが、なかなか答えが得られませんでした。
そんな中1990年代後半、市場にメタリックのような淡水真珠が現れ(図3)、これに衝撃を受けた小松博氏は、もう一度真珠のテリを勉強し直すと決め、神戸芸術工科大学の大学院に通うこととなりました。


図3 メタリックと呼ばれる淡水真珠

 

その大学で運命的な出会いがあったのです。
暗くなった大学の研究室の机の上に、電源の入ったライトボックスが置いてありました。持っていたクロチョウ真珠を何気なくその上に載せたところ(図4)クロチョウ真珠の光源に接触した付近に鮮やかな干渉色が現れていたのです(図5)。オーロラ効果の発見でした。


図4 当時の雰囲気を再現した画像


図5 拡散光源にのせたホワイト系アコヤ真珠とクロチョウ真珠(図1の真珠)

 

その後、ホワイト系アコヤ真珠とクロチョウ真珠の干渉色はどのようなメカニズムで現れるのか、回折格子の研究で著名な原田先生※3に出会えてご指導いただけたこともあり、解明に繋がっていきました。
この「オーロラ効果」は、鑑定鑑別書にも記載されています。

 

※1 拡散光源に真珠を接触させると、干渉色が鮮やかに観察できます。光の色ということで、小松博氏は「オーロラ効果」と名付けました。
※2 両者の結晶層1枚の厚さは、平均0.36μm程度(1mm=1000μm)
※3 原田達男先生 都立大学教授(当時)