レポート

アコヤ真珠のテリについての①光輝値測定、②反射干渉色光評価、③目視評価の比較研究 ー2010年宝石学会発表

真珠にとって最も重要な価値は、テリである。しかしその判定は、今に至るまで熟練者の目視で行われている。今回、新たに開発した専用の装置を用いてテリの数値化を試みた。真珠のテリについて、その客観的評価の可否を検討した比較研究の報告である。

真珠の“テリ”が何であるか、正しく認識されているとは言い難い。真珠光沢は、A.表面光沢、B.内面光沢に分けることができ、さらにB.内面光沢は、b-1.輝きとb-2.干渉色のふたつに分けられる。一般にテリといった場合、A+b-1、すなわち表面光沢と輝きのふたつを指すことがほとんどである。
このような意味でのテリについては、既に重要な研究がある(相田貞蔵「真珠の光沢」)。今回われわれの研究の基本的な部分も、この相田氏の研究に従っている。だが、我々と相田氏の異なる点は、真珠の“テリ”の定義である。真珠を真珠たらしめているテリには、必ず色彩(干渉色)が含まれている。これは私たちが経験的によく知っているところでもある。したがって、テリについて、通説とは別に次のように定義しなおす必要がある。

 

テリ=色彩を伴った輝き/輝きを伴った色彩

 

A.表面光沢は、“ツヤ”と呼ばれるべきであり、“テリ”はb-1+b-2、輝きと干渉色からなるものである。

以上の認識に基づいて、今年(2010年)、真珠のテリを測定する専用の装置を新しく開発した。この装置では2台のカメラを用いて、反射干渉光と光輝値(輝き)を測定する。撮影データを付属のパソコンに転送し、専用のプログラムを用いて反射干渉光を画像化、光輝値を数値化する(図1,2)。

図1 光輝測定概念図

図2 測定機器

 

比較研究の流れは次のとおりである。まずアコヤ真珠を3種の干渉色パターン(RG/G/R)に分類した(図3)。それらサンプルのテリ発現強度を熟練者の目視で7段階に分類した。ここで上記の装置を用いて、反射干渉光と光輝値の客観的測定を行った。

図3 干渉色による分類

左から RG系、G系、R系

反射干渉光の画像は、色相・彩度・明度の3点で評価を行う。色相は色の多様性、彩度は色の鮮やかさ、明度はどれだけ明るいかである。今回の測定では、RG系とG系において、目視評価とテリ強度順序が入替った箇所がひとつずつあった。R系については、目視評価と正確に対応した結果が得られた。
つづく光輝値(輝き)の測定では、反射干渉光より若干劣った結果が出た。RG系において、7段階中3段階において、目視評価との入れ違いが見られた。G系とR系については、目視との入れ替わりはひとつずつ(2段階)であった。
結果を総合すると、目視評価で7段階に分類したものが、反射干渉光評価ではおよそ6段階に、光輝値測定ではおおよそ5段階に分類されたと言える。
真珠のテリの数値化・客観化は、今回の比較研究において十分有意な結果が得られた。テリはある範囲において測定可能である。現時点では熟練者の目視にはまだ及ばないが、人間の目は、輝き・色彩、またキズや形といった複雑な要素を瞬時に見分けることが可能である。今回用いた装置は、それら総合的判断においては熟練者には及ばない。
しかし、これまである意味経験的・主観的に行われてきたテリの判定に、客観的な裏付けが可能になったということは重要である。鑑別・鑑定を保証する上で、意味のある結果と言えるだろう。