レポート

流通している養殖真珠のネックレスに見られる様々な劣化現象の研究 ー2010年宝石学会発表

真珠には様々な劣化現象が見られる。これらの劣化現象は養殖段階や加工段階で発生したキズが劣化するものや、保管や管理が不十分なために発生するものがある。この真珠の劣化現象の中で、発生頻度が高い5種類についてまとめた。

 

①表面溶解(図1)
最も発生頻度が高く、全ての真珠で起こる現象である。その原因は使用時に付着した汗や化粧品などであり、これらが表面を溶解することで微細な凹凸ができる。そこに当たった光が乱反射を起こすため、真珠の表面が粉を噴いたように白く見えるのである。なお、この劣化現象は修復が可能である。その方法は溶解した表面の真珠層を剥き、下部の層を表面に出すことである。

図1 表面が溶解し凹凸ができた真珠

 

②加工キズ(図2、3)
主にアコヤ真珠に見られる現象であり、流通前に行われる加工で発生する。特に多い加工キズは「ひび」と「スポット」である。ひびは肉眼では見えにくいほど細かい亀裂であり、強い光を当てることで確認がしやすくなる。スポットとは白い斑点状のもので、亀裂を生じていることが良くある。これらは時間の経過により真珠全体へ広がる可能性が非常に高いものであり、また修復することができない。

図2 ひびのある真珠

図3 スポット拡大画像

 

③層割れ(図4)
白蝶真珠や池蝶真珠など真珠層が厚い真珠に多く見られる。この現象は真珠層内部に発生しており、強い光で真珠の内部を透かすことで確認できる。その発生原因は温度や湿度変化による真珠層の膨張と収縮の繰り返しである。膨張と収縮の大きさが真珠層の外部と内部で異なることで境目にひずみが生じ、そこから亀裂が発生する。この発生を防ぐには、保管を湿度や温度の変化が少ない場所にするのが効果的である。

図4 層われのあるシロチョウ真珠の断面

 

④稜流層起因のひび(図5、6)
稜柱層とは貝殻の外側を構築している層であり、養殖時に真珠の表層部や内部に形成されることがある。この層は乾燥すると大きく収縮する特徴があり、それにより亀裂を生じる可能性が高い。また真珠表面に露出している場合、元々褐色だった稜柱層が白色に変化し、新たにキズが増えたように錯覚することもある。

図5

図6

⑤褪色、変色(図7、8)
真珠の色は真珠層内に含まれる有機物や色素に起因する。有機物起因の場合、有機物が乾燥し収縮することで見えにくくなり、褪色することがある。色素起因の場合、熱や光で色素が変化し同様に褪色することがある。また結晶層間に存在するタンパク質が変性して、白色であった真珠が黄色っぽく変色することもある。これら褪色や変色を防ぐには、温度湿度変化が少ない、直射日光の当たらない場所で保管するのが良い。

図7 淡水真珠加熱前(左)と加熱後(右)

図8 アコヤ真珠水銀灯照射前(上)と照射後(下)

 

これら5つの劣化現象は、発生の原因により「使用環境に関与して起こるもの」と「真珠業界特有の問題」の2種類に分けることができる。使用環境に関与して起こるものは①表面溶解、③層われ、⑤褪色、変色の3つである。これらは科学的な修復が可能である、あるいは保存方法により発生を防ぐことができる。真珠業界特有の問題には②加工キズ、④稜柱層起因のひびが挙げられる。これらは消費者側から対処の仕様がない。そのため売手側が流通前のチェック体制を設ける等により、このような商品を流通させない取り組みが必要である。