レポート

バイオレット系真珠の特性とその出現機構についての考察 ー 2013年宝石学会発表

バイオレット系アコヤ真珠は、一部加工業者間で「赤チン珠」として知られている。バイオレット系アコヤ真珠は反射分光スペクトル上500nmに特有の吸収が見られる。この特有の吸収はアコヤガイ貝殻稜柱層と共通していることから、バイオレット系アコヤ真珠の赤紫色色素は貝殻稜柱層由来であることがこれまでに推定されている註1)。また同様にバイオレット系シロチョウ真珠にも反射分光スペクトル上500nmの固有の吸収があることがわかっている註2)。
本研究ではクロチョウガイ・マベ・ヒレイケチョウガイの各バイオレット系真珠やその貝殻稜柱層について、分光特性や紫外線(UV)照射による反応を調べた。

 

Ⅰクロチョウガイ貝殻とその真珠の分光特性
クロチョウ真珠は含有する色素の種類と含有量の違いによって、ブラック系・グリーン系・レッド系の大きく3つに分類することができる。またクロチョウ真珠は反射分光スペクトル上、400nm、500nm、700nmの特有の吸収帯をもつことが知られている。しかし反射分光分析ではレッド系クロチョウ真珠は他の系統と比べ500nm吸収が特に大きく、またクロチョウガイ貝殻稜柱層も同様の500nm吸収を有することがわかった。また蛍光分光スペクトルでもバイオレット系真珠とクロチョウガイ貝殻稜柱層の両方で620nmの特徴的なピークが見られた(Fig.1)。UVライト照射による観察では、レッド系クロチョウ真珠が赤色蛍光を発することがわかった(Fig.2)。

Fig.1 レッド系クロチョウ真珠の蛍光分光特性  Fig.2 UV照射によるレッド系クロチョウの観察

 

Ⅱマベ貝殻とその真珠の分光特性
バイオレット系マベ真珠も蛍光分光スペクトル上620nmにピークをもつことは既に知られており、本研究でも同様のピークが確認されることができた(Fig.3)。反射分光分析によって、バイオレット系アコヤ真珠と同じ500nm吸収が観察されたが、マベ貝殻の外側稜柱層では確認されなかった(Fig.4)。

  

Fig.3 赤紫系マベ真珠の蛍光分光特性   Fig.4 赤紫系マベ真珠の反射分光特性

 

Ⅲ淡水貝殻稜柱層とパープル系淡水真珠の分光特性
本研究ではヒレイケチョウガイ貝殻の外側稜柱層の分光特性を調査したところ、反射分光と蛍光分光の両方で固有の吸収やピークは確認されなかった。淡水真珠は主にオレンジ系とパープル系の2種類が代表的であるが、今回の反射分光測定では両方で固有の吸収は見られなかった。しかしパープル系真珠の場合、蛍光分光スペクトルにおいて630nmに固有のピークが見られた(Fig.5)。

Fig.5 パープル系淡水真珠の蛍光分光特性

これまでバイオレット系真珠の赤紫色素については、度々ポルフィリン色素群であることが推定されてきた註3,4)。アコヤガイの貝殻稜柱層ではウロポルフィリンを含むポルフィリン色素群の存在が確認されており、UVライトによって赤色蛍光を発することも確認されている。またクロチョウガイからも蛍光分光上の620nmピークが確認されている。今回はクロチョウガイのレッド系真珠とその貝殻稜柱層で共通の分光特性が確認されたことから、バイオレット系真珠の赤紫色色素は稜柱層由来である可能性があり、またその色素がポルフィリン色素群に属することも考えられる註5)が今回は色素については追求できなかったので今後の研究課題としたい。
今回の結果から、母貝鑑別と処理真珠の簡易鑑別に利用できると考えている。まず母貝鑑別では同じバイオレット系真珠でも海水産が反射分光500nm吸収の固有の吸収をもつが、淡水産には固有の吸収がないためバイオレット系真珠の海水産と淡水産の同定に利用できる。処理真珠の簡易鑑別ついては、レッド系クロチョウ真珠と着色ブラック系真珠の判定に有効である。レッド系クロチョウ真珠と着色ブラック系真珠は、どちらも強い光を近づけると赤褐色に見えるため判別が難しい。しかしUV照射を行うとレッド系クロチョウ真珠が赤色蛍光を発するのに対し着色ブラック系真珠は赤色蛍光を示さないことから、簡易鑑別に利用可能である。