レポート

内部に偶発的に存在する稜柱層と真珠の劣化現象の相関性に関する研究 ー 2013年文化財保存修復学会発表

真珠を生み出す貝の貝殻は、90%以上の炭酸カルシウムと数%のタンパク質を主成分とする真珠層と稜柱層という構造(図1)からできている。その貝殻真珠層を作る外套膜機能を利用して養殖される真珠にも母貝の衰弱などで稜柱層が作られる場合がある。稜柱層は真珠層に比べ水分含有量が多く、緻密な真珠層構造の中の異質層として、劣化の要因となることが多い。この稜柱層を起因とする3つの劣化現象とその対策をまとめた。
 

図1 左:真珠層構造、右:稜柱層構造

 

1. 層われ
真珠層のわれは、強い光を当て割れたところで光の明暗が分かれる(図2)ことで確認できる。この発生要因は、養殖初期に核のすぐ上に巻いた稜柱層(図3)や、真珠層の中層部にできた稜柱層(図4)であることが多く、これらの稜柱層に温湿度変化などのストレスが蓄積しわれが発生、真珠層にわれが伝播したと推定できる。
われの対策は、温湿度の変化を最小限にすること、ひずみが蓄積しないよう浜揚げ後、早く孔あけをするなどがある。

図2 強い光をあてたわれのある真珠

図3 真珠断面:養殖初期にできた稜柱層とそこから発生したわれ(A,B)

図4 真珠断面:養殖中期にできた稜柱層

 

2. 白キズ
クロチョウ真珠で見られる、経年変化で一部の凹みキズが白く変化する現象(図5)のこと。凹みキズの底面は、真珠層の場合と稜柱層の場合がある。底面が稜柱層の時、乾燥で稜柱層にわれが入り、光が散乱することで白く見えるようになる。
対策は、稜柱層が乾燥しないよう凹みキズに樹脂や接着剤などを流し込む方法がある。

図5 クロチョウ真珠の白く変化した凹みキズ

 

3. 孔口崩壊
真珠に凸キズがある場合、そこに孔をあけることが多い。凸キズは、内部に有機物や稜柱層が存在することが多く、そこに孔を開けることで乾燥して有機物は収縮し、稜柱層にわれが入り、薄い真珠層に負荷がかかりわれ落ちてしまうというように劣化が進む(図6)。

図6 孔口が破損した真珠

対策として、稜柱層を避けて孔あけする、ネックレスには使用しないなどがある。接着剤で芯に固定する場合には、乾燥が進まないためである。

表1

 

以上、稜柱層起因の劣化は表1のようにまとめられる。真珠を加工する際には、稜柱層の有無の確認や、温湿度の変化を最小限に調整することが必要である。