レポート

ゴールド系シロチョウ真珠の新たな鑑別法(2014年宝石学会・文化財保存修復学会発表)

ゴールド系シロチョウ真珠は、養殖真珠の中でもその希少性や豪華さにより人気が高まっている。しかし近年、ゴールド系シロチョウ真珠の色調を精巧に模した着色真珠が市場に出現したことから、両者の鑑別法の確立は急務となってきた。本研究では従来法である紫外線照射による蛍光観察、分光反射法に加え新たな非破壊による鑑別法として顕微ラマン分光法を用いて、ゴールド系シロチョウ真珠の着色・非着色真珠の分析を行ったのでその結果について報告する。

1.紫外線照射による蛍光観察
今回は短波と長波の2つの波長をそれぞれ照射し、観察した。ナチュラルのゴールド系シロチョウ真珠の非着色真珠(以下、ナチュラルと呼称する)は本来、蛍光をほぼ発しない。しかし着色試料では短波、長波の両方で赤色蛍光や青白色蛍光など様々な蛍光パターンが見られた(Fig.1)。

Fig.1 蛍光観察(左:ナチュラル、右:着色)

 

2.分光反射分析
ナチュラルのゴールド系シロチョウ真珠には、280、360、450nm付近の3つの特徴的な吸収が存在する。この3つの特徴的な吸収の有無によって、ナチュラルかどうかを判断する。着色真珠の場合は3つの吸収の一部のみが観察されないもしくは吸収位置がシフトしているなど、ナチュラルとは異なる傾向を示した(Fig.2)。
分光反射分析は様々な鑑別に利用されているが、材料である真珠が多層膜の球体であることや分光装置内の積分球に試料を設置することから、実際には反射の干渉色が影響する場合があることが昨年の宝石学会で山本らが報告している。分光反射法で分析する際はこの問題点について留意しなければならないため、新たな鑑別法として顕微ラマン分光法について検討した。

Fig.2 分光反射スペクトル(左:ナチュラル、右:着色)

 

3.顕微ラマン分光法
顕微ラマン分光法では着色試料は散乱強度が5000以上を示し、ナチュラル試料では5000以下であったことから有意の差が認められ、鑑別可能であることが示唆された。1100cm-1付近ではアラゴナイト結晶ピークが両試料で観察された(Fig.3)。着色処理によって試料に何らかの影響があると考えられるため、両試料のそれぞれのピークについて注目し900~1200cm-1付近の最大強度と最低強度の強度比をプロットした(Fig.4)。強度比は着色試料で0.8以上、ナチュラル試料で0.8以下の範囲になることがわかった。しかし着色試料のうち3試料(◆)は散乱強度と強度比からナチュラルの可能性が示唆された。分光反射法、蛍光観察の結果から総合的にナチュラルの疑いのある3試料のうち、2試料についてはナチュラル、1試料については着色と判断した。

Fig.3 両試料のラマン分光スペクトル例

 

Fig.4 散乱強度(対数)と強度日による分布図

非破壊分析による判断と相違ないか確認するため、3試料を切断し薄片切片を作製し顕微鏡観察で着色層の有無を確認した。薄片切片を観察すると3試料中2試料については表層に着色層は観察されず、ナチュラルと同様の規則的な黄色の帯状真珠層が見られたためナチュラルであると判断した(Fig.5)。残りの1試料については真珠層全体の黄色色素の分布がわずかであることや、表層100μmのみが黄色が濃くなっていることから着色層であると考えられ、本試料は着色であると判断した(Fig.6)。

Fig.5 薄片切片観察画像(ナチュラル)


Fig.6 薄片切片観察画像(着色)

 

ナチュラルの疑いのあった3試料については2試料をナチュラル、1試料を着色と判断したが非破壊分析による結果を裏付けるものとなり、顕微ラマン分光法の有効性を確認することができた。しかし実際には顕微ラマン分光法による測定だけではなく従来法も併用し、多角的に分析することで着色と非着色の鑑別の精度は上がるものと考えられる。