レポート

アコヤ真珠・シロチョウ真珠の鑑別の試み―Ⅰ (2014年宝石学会発表)

真珠を産出する母貝の中でアコヤ真珠とシロチョウ真珠の判別法は確立されていない。紫外線レーザー励起による発光スペクトル分析法(小松博、1987年真珠鑑別論序説)、蛍光X線分析によるCa,Na,Sr元素強度比による分析(伊藤映子、2002年宝石学会)が報告されているが、実用化には至っていない(真珠鑑別論序説改訂版30参照)。したがって両者は貝の大きさやその生息海域の違いによる真珠の大きさ、まき、核の大きさ、質感などから推定されている。しかし近年、養殖技術の改良などにより10ミリ以上のアコヤ真珠や10ミリ以下のシロチョウ真珠が流通しており、両者の判別方法の確立が急務である。今回、この判別法確立のためアコヤ真珠、シロチョウ真珠の構成元素等の違いを分析したので報告する。
分析は、①TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)、②LA-ICP-MS(レーザーアブレーションICP質量分析法)、③エネルギー分散型蛍光X線分析の3つの方法で行った。また、第1回測定試料として、アコヤ貝殻、真珠(ともに長崎産)、シロチョウ貝殻、真珠(ともに沖縄産)各1個ずつを①、②、③で測定、第2回測定試料として、アコヤ真珠(長崎産)、シロチョウ真珠(フィリピン産)各5個ずつ②の測定を、各10個ずつ③の測定を行った。

 

①TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)
測定試料は、高さが1mm以下と制限があり、測定箇所はごく表層(1~3nm)、結果は強度比で測定される。結果は図1に示したが、アコヤ貝殻・真珠とシロチョウ貝殻・真珠の明らかな違いは見られなかった。真珠のみを比較すると、K+などのいくつかの微量元素とタンパク質由来と考えられる物質に違いが見られた。


図1 TOF-SIMS測定結果

 

②LA-ICP-MS(レーザーアブレーションICP質量分析法)
この方法の測定箇所は表層数μm以上であり、レーザーを当てた箇所に測定痕が残る。本研究では、17元素について測定した※。結果は、La,Znのみアコヤ、シロチョウに違いが確認できたが、他の元素では貝殻と真珠の傾向が異なっていたため、真珠のみ個数を増やして第2回測定分析を行った。その結果、図2に示す7元素(B,Mg,K,Mn,Zn,La,Ce)について、アコヤ真珠とシロチョウ真珠に違いが確認された。しかし、個々の分析値ではばらつきもあるため、判別するには複数の元素を比較する必要があると考えられる。
※各種文献を参考に測定を次の17元素とした:Li,B,Na,Mg,K,Mn,Fe,Sr,Pb, Al,Sc,Zn,Ga,Ba,La,Ce,Bi

図2 LA-ICP-MS測定結果(縦軸はCa100gに対するppm)
各試料5回ずつ測定(実線)、平均値(白抜き棒線)
赤:アコヤ真珠、青:シロチョウ真珠

 

③エネルギー分散型蛍光X線分析
測定箇所は試料表面であり、非破壊検査法であるが、①②に比べ極微量成分の検出能力は劣る。第1回試料の貝殻、真珠では、アコヤ、シロチョウの違いが確認できなかったため、真珠のみ試料数を増やし第2回測定を行った。その結果、ほとんどの試料で測定できた元素は、Sr,Na,Cu,Sであり、アコヤ真珠とシロチョウ真珠の傾向が見られたのは、Srのみであった(図3)。

図3 蛍光X線分析結果
赤:アコヤ真珠、青:シロチョウ真珠

 

限定された条件下ではあるが、3つの分析方法を行い、貝殻と真珠は同一ではないこと、アコヤ真珠とシロチョウ真珠では、有機基質、微量元素に違いがあることが確認された。

次に複数の元素でアコヤ、シロチョウ真珠の違いが確認されたLA-ICP-MSの結果より、両者の判別が可能か検証した。第2回測定結果の元素ごとに平均値を算出し、第1回測定試料のアコヤ、シロチョウ真珠の値と比較したのが表1である。アコヤ真珠でB,Kが、シロチョウ真珠でMg,Ceが平均値の傾向と一致しなかったが、7元素中5元素は各々の平均値に近い値であった。

表1 LA-ICP-MS検証結果

 

以上、従来の目視観察やまき測定に加え、LA-ICP-MSでの複数の元素分析を行うことで、判別の可能性が示唆された。今後、試料数を増やし環境の違いによる差など検証していきたい。
但し、この分析法は微小な測定痕が残り、厳密な非破壊検査ではない。有機基質の違いの確認も含め、新たな測定法も模索する必要がある。