レポート

真珠鑑別における蛍光観察および蛍光分光測定の検討(2022年宝石学会発表)

宝石における鑑別手法のひとつに「紫外線照射下における蛍光の観察」があり、真珠でも各種検査に利用している。一般に真珠に見られる蛍光は以下のようなものがある。

・ 海から揚げたままの珠(浜揚げ珠)の“黄色”の蛍光
・ 漂白した真珠に見られる“青白”蛍光
・ 着色した真珠に見られる“赤色”や“橙色”などの蛍光や強度の違い(図1)
・ マベ産出の真珠に見られる “赤色”の蛍光

このように蛍光の色や強度の違いから、さまざまな真珠の特徴を調べる検査方法である。しかし、以下に挙げる真珠を取り巻く環境変化の影響や、検査の特徴より判断が難しい部分がある。

 
図1 未処理ゴールド系シロチョウ真珠(左)、着色ゴールド系シロチョウ真珠(右2個)の蛍光

 

1、真珠の加工状況の変化
漂白などの加工は、アコヤ真珠では行われシロチョウ真珠では行われないのが一般的であった。そのため、白色系のアコヤ真珠では“青白”、シロチョウ真珠では“黄色”と蛍光の違いが観察でき、判別のひとつの手法として利用していた。
しかし、近年ではシロチョウ真珠においても漂白などの加工が行われるようになり、蛍光の違いでは判断が難しくなっている(図2)。

図2 観察したシロチョウ真珠連(左)と中心部の蛍光

 

2、検査者の目視観察による判断
蛍光検査は蛍光の色や強度から判断を行うものである。そのため、色の違いや強弱は検査者の感覚に影響される部分も大きい(図3)。例えば、放射線照射処理された真珠は蛍光が弱くなる傾向がある。この“弱くなる”ことについて、どの程度の明るさを“弱い”と判断するかは、検査者の感覚に委ねられる。また、蛍光の弱化は真珠ごとに異なるため、検査者の経験が頼りとなる部分が大きい。

図3 黄色度の異なるシロチョウ真珠とその蛍光

これらのことから、より精密な計測の必要性を考え三次元蛍光分光機による測定を行った。三次元蛍光分光機は、励起波長ごとに測定したデータを三次元のグラフとして表示することできるものである。このグラフ化したデータより、目視観察した蛍光の色や強度がどのように現れるか、また鑑別法として利用可能なものかを探った。

 

今回、以下の試料を検査対象として測定を行った。

【試料1】浜揚げ珠と漂白珠
通常の蛍光観察では、浜揚げ珠は“黄色”、漂白珠は“青白”の蛍光が確認できる(図4)。
三次元蛍光分光測定は、以下の通り(図5)。
① 浜揚げ珠:励起波長280㎚付近、蛍光340㎚に非常に大きなピーク
② 漂白珠:浜揚げ珠で見られたピークは現象
励起波長380㎚付近、蛍光420㎚にピーク
測定結果より、漂白前後で励起波長280㎚と380㎚付近の特徴に違いか確認された。

図4 浜揚げ珠とその蛍光(上段)、漂白珠とその蛍光(下段)

図5 浜揚げ珠、漂白珠の3次元蛍光分光結果

 

【試料2】有機物由来のブルー系真珠と放射線照射処理によるブルー系真珠
通常の蛍光観察では有機物由来の真珠は“黄色”、放射線照射処理は“弱い青白”の蛍光が確認できる(図6)。
三次元蛍光分光測定は、以下の通り(図7)。
① 有機物由来:励起波長280㎚付近で蛍光340㎚のピーク
② 放射線照射:励起波長280㎚付近、蛍光340㎚のピーク(やや小さい)
励起波長360㎚付近、蛍光420㎚のピークの出現
測定結果より、励起波長280㎚の時の蛍光減少と励起波長360㎚のピーク出現に違いが確認された。

図6 有機物由来のブルー珠(左)と放射線照射ブルー珠(右)の蛍光

図7 有機物由来、放射線照射ブルー珠の3次元蛍光分光結果

 

【試料3】マベ半形真珠
通常の蛍光観察では“赤色”の蛍光が確認できる(図8)。
三次元蛍光分光測定では、励起波長400㎚付近で蛍光610㎚の小さいピークが観察された(図9)。

図8 マベ半形(左)とその蛍光(右)

図9 マベ半形の3次元蛍光分光結果

 

今回検証した試料では、上記のような特徴を確認した。今後、試料数を増やして計測を行うことで上記特徴をより詳しく調べ、鑑別法として利用可能であるかを継続して調べていきたいと考えている。