レポート

真珠の品質要素であるテリの物理・化学的論究及び測定法の試み(2017年 宝石学会(日本)特別講演)

真珠の品質は、テリ、キズ、面、かたち、まき、色などの品質要素から成っており、それぞれの評価と要素間の按分比を考慮し、品質評価されている。
養殖真珠を誕生させた日本では、1952年(昭和27年)に発布された真珠養殖事業法によって、真珠検査所が設立され、真珠の検査が行われていた。しかし、発足時には真珠及びその関連分野についての科学的解析はほとんどなされておらず、テリと艶を同じものとし、艶はまきを表現するといった間違った見解を示していた。また、真珠に於ける光の干渉現象であるテリの説明では、真珠の特殊性が考慮されておらず、不十分であった。これらの見解はその後の真珠の宝石学的知見に影響を与え、今日に至っている。
真珠が最古の宝石なりえた最大の理由は、キズやかたちなどの品質要素ではなく、「テリ」があったからである。品質要素の中で、真珠の「テリ」は最も重要視されなければならない。

 

真珠に於ける光の干渉色の現れ方
前面が開いている黒いボックスにアコヤ真珠を入れ、下方に置いた拡散光源に接触させ、観察すると、真珠の上半球に透過の干渉色、下半球に反射の干渉色の色模様が発現する(図1)。真珠は球体であるため、観察方向と球体の表面の垂線との角度によって見える干渉色の色が変わり、同心円状の色模様となる。また、透過と反射の干渉色は補色となっている。

図1

 

テリの計測法
テリの強弱は、透過・反射の干渉色の現れる色(色相)と、その彩度、明度の強弱に一定の相関がある。したがって、透過・反射の干渉色を写真撮影し、その画像をマンセルカラーシステムでの色相、彩度、明度の三属性に分類(図2)、色立体化し数値化することによって、テリを計測することができる。

図2

 

真珠に於ける光学的3つの知見
「テリ」の光学的分析を進める中で、以下の3つの点について従来の定説とは異なる知見が得られた。
①光の干渉は、反射と透過で起こる(図3)
②真珠は球体である(図4)
③真珠表面のアラゴナイト結晶のc軸はすべて表面に垂直に配位している(図5)
これらのことより、テリの強い真珠には干渉色の鮮やかな色模様が発現し、真珠が宝石たる所以となっている。

図3

図4

図5