<マイクロ研磨>
1. 依頼事項
「浴室に置き忘れてしまった真珠のネックレスが、触ると崩れそうな白い化石のようになってしまいました。あきらめるしかないでしょうか。一度クリーニングをしてみてほしい。」とのご依頼です。
2. 商品データ
形状:オフラウンド系 ネックレス(図1)
珠数:48個
サイズ:7.5~8.0mm
クラスプ:シルバー 珠3個付
図1 依頼商品
3. 診断
目視でクラスプ頭珠を含めたほとんどの珠全体に白いものが付着(図2)しています。このままではクリーニングを行ってよい商品か行えない商品なのか判断ができないため、注意深くクラスプ横の珠一部分のみ付着物を取り除き、真珠であるかどうかの確認作業から始めました。光学顕微鏡で真珠特有の成長模様を確認することができ、また真珠層表面の軽微な溶解(図3)を認めました。
図2-1 修復前クラスプ
図2-2 修復前ネックレス珠
図3 真珠表面拡大(×100)
4. 原因
弊社クリーニング部にご依頼いただく商品の多くは、装着時肌に触れて汗が着く箇所に汚れが目立ち、直接肌に触れない箇所や肌が擦れる箇所は汚れが軽微であるなど均一ではありません。それに対し当該商品は、直接肌に触れないクラスプの頭珠を含め珠全体に付着していました。このことから湿度の高い浴室に放置したため真珠層表面の溶解に加えてカビのようなものがネックレス全体に広がってしまったと診断しました。
5. 修復
診断にて成長模様を確認し、クリーニングができる商品であると判断しましたので以下の手順にて修復作業を行いました。
当該ネックレスはオフラウンド系であるためパールリフレッシャーおよび真珠リフレッシュクロスを使用した手磨きにて修復、またクラスプの頭珠3珠も手磨きにて修復しました。その後、真珠照りクロスにて最終仕上げを行い。元の輝きを取り戻しました(図4、5)。
図4-1 修復後クラスプ
図4-2 修復後ネックレス珠
図5 修復後ネックレス
6. まとめ
今回のように商品の見た目が大きく変わってしまいあきらめてしまう方も多いと思います。しかし真珠は表面が今回のようになってしまっても修復可能な宝石です。なぜなら表層の炭酸カルシウムが酸によって溶解しても酸に強いたんぱく質のシートが中の真珠層を守っています。真珠層は1000層以上(1層の厚さ:0.2~0.5ミクロン)の炭酸カルシウムの結晶とたんぱく質のシートが積み重なって作られているので、傷んでしまった表層をミクロレベルの研磨にて取り除けばテリを元に戻すことができるのです。
真珠は、必ず拭いてから湿度変化の少ないところに保管し、輝きがなくなってしまったと感じたら諦めず「マイクロ研磨」にてクリーニングを試してみてはどうでしょうか。
※内容、画像ともに当時のまま