レポート

真珠クレームカルテ 2 (2009年5月)

褪色した黒蝶真珠

1.クレームの内容
5~6年前に買った黒蝶真珠のペンダントですが、購入時はもっと黒く、綺麗なグリーンの光彩がでていました。黒みは失われ、光彩も消えてしまった。この変化の原因と修復の可能性について教えてください。

 

2.診断結果
① 形態、母貝検査(図1)
・ドロップ形真珠のペンダントトップです。サイズは長径19mm、短径11mmです。
・外観は先端部に向けての半分が赤褐色、孔口に向けて後端部半分が淡褐色。
・先端部の分光スペクトルに黒蝶吸収が確認できましたのでクロチョウガイ産出真珠です。

図1 褪色したクロチョウ真珠

 

② 褐色の原因考察
・レントゲン透視像(図2)から内部を考察すると、先端部に核があり、後端部は有機物が占有しているということです。有機物は経年変化で黒褐色から淡褐色になる性質があります。

図2 レントゲン透視画像

 

・光透過法で後端部は十分光が透過します(図3)。このことは、ⅰ)有機物が褪色している、 ⅱ)もともとクロチョウ真珠特有の色素がほとんどない白色部の真珠層である、ということを示しています。
・オーロラビューアーで反射の干渉色を観察すると(図4)、青から緑色が出ています。これは、青から緑の光彩は購入時から現在まであるのですが、黒味を喪失しているため現在は見えにくいということを意味しています。何故なら反射の干渉色は黒みがあるほど鮮やかになる性質があるからです。

図3 光透過法

図4 オーロラビューアーによる反射の干渉色

 

③ 責任の所在
・上記の原因考察で、「有機物の経年変化による場合」であることが判明しましたから、ユーザー側の手入れの悪さから派生したものではありません。また販売側に、このような内部構造を持った真珠の販売責任を追求するのは厳しすぎると思います。
今後このような高度の専門知識を持つ努力を、販売側は目指すべきとは思います。

 

3.修復の可能性
内部の淡褐色化した有機物を本来の黒褐色にすれば、購入時の状態にほぼ回復できるはずです。それには金具を抜き、孔口を開放してそこから、黒色の合成樹脂などを充填するといった方法があります。
その費用や完全な原状復帰には限界があることをユーザーサイドが納得していただいてからの、修復実施だと思います。

 

※画像は当時のまま