＜バロックの剥離＞
１． クレームの内容
10年以上前に購入したシロチョウ真珠のバロックネックレスですが、ケースに入れて保管していました。最近になって開けてみたら、虫食いのような穴が沢山あるのを見つけ、驚いています。原因を教えてください。
２． 診断
① 形態観察
・典型的なバロックのネックレスです（図１）。そのかたちのおもしろさに魅せられて購入したのでしょう。
・34個の真珠のうち19個に真珠層剥離が起きています。孔口部が大きく広がったもの（図２）と、非孔口部にあるもの（図３）に大別されます。
図１ 依頼品
図２ 孔口部での剥離
図３ 非孔口部の剥離
② 真珠層剥離の原因
・まずバロック珠はどうしてできるのかについて説明します。
挿核手術の直後に様々な要因で真珠層以外のものが分泌されることがあります。異質層と総称していますが、大半は有機物と稜柱層からできています。そして一定期間後正常な文筆活動が始まり、真珠層がその上に巻かれていきます。この異質層のため真珠のかたちはバロック形になるわけです（図４）。
・異質層は乾燥によって収縮する性質があります。それは有機物でも稜柱層でも非常に水分が多いためです。したがって長期間たちますと有機物が消失し巨大な空洞が真珠の中にできるということになります。
・真珠の中に空洞ができても、真珠層が厚ければ中の核がコロコロ動くという程度ですみますが、本事例のように真珠層が非常に薄い場合は、稜柱層にひびが入り（図５）、やがて層の一部が抜け落ちるという現象が起きるわけです。
図４
図５ 剥離部周辺のひび、および褐色部の稜柱層
③ 責任の所在と修復の可能性
・エンドユーザーの責任は全くありません。このような欠陥を内在している商品を販売した側の責任です。真珠層の厚さ測定を事前にする義務があります。
・修復の可能性はありません。
※画像は当時のまま
