分光光度計による測定は様々な宝石の鑑別に利用されており、真珠では反射分光を測定することでゴールド系真珠の着色やクロチョウ真珠の判別を行っている。しかし、一部の真珠では反射分光から着色の判別が困難なものがある。今回の研究では、このような判別が困難な真珠について、反射分光に影響を与える真珠特有の要因があると考え、その要因がどのようなものなのかについて調べた。
反射分光測定は、特定の波長の光の反射率や吸収率を測定することで、試料に含まれる色素等を調べる方法である。ゴールド系の真珠では貝本来の色素特有のパターンを確認することにより、その真珠の色調が人為的な処理によるものかを判別している。
反射分光に影響を与えるものとしては、“干渉を起こす物体である”、“球体である”という2つの真珠特有の大きな要因が考えられる。そこでまず初めにこの2つの要因が反射分光にどのような影響を与えるかについて調べた。
試料には、ドブガイ貝殻(平面と球体)、シロチョウガイ貝殻真珠層薄片、シルバー系のシロチョウ真珠を用い、次の点について試料の着色前後の分光パターンを比較することで、染料の特徴に影響を与えるかを調べた。
①形状(平面と球体)が分光パターンに与える影響
②干渉が分光パターンに与える影響
③形状(平面と球体)と干渉両方が存在する場合に分光パターンに与える影響
測定の結果、全てで染料のパターンが同様に確認できたことから、上記の試料では形状や干渉による反射分光パターンへの影響は特にないと考えられる。(図1、2、3)
図1 ドブガイ貝殻の着色前後の反射分光スペクトル
図2 シロチョウガイ貝殻の着色前後の反射分光スペクトル
図3 シロチョウ真珠の着色前後の反射分光スペクトル
しかし、アコヤ真珠では一部の真珠において、着色前後で染料の特徴が確認できないものがあった(図4-1、4-2)。上記の試料とアコヤ真珠の大きな違いは、干渉色が強く鮮やかに出現するという点である。そこで干渉色に着目してみた。
図4-1 着色したアコヤ真珠 図4-2 アコヤ真珠の着色前後の反射分光スペクトル
干渉色には“反射”と“透過”の2種類があることは以前の宝石学会にて発表している。この2種類の干渉色のうち、反射干渉色は色素や染料の影響を受けにくく、結晶層の厚みが出現するパターンを決定している。今回の測定において、染料のパターンが確認できなかったことから、色素などの影響を受けにくい反射干渉色が反射分光に影響していると考え、次のような測定を行なった。
試料には非常にテリが良く、干渉色の出現パターンが類似したアコヤ真珠とクロチョウ真珠の反射分光をそれぞれ測定し、比較した。その結果、干渉色の出現パターンが類似した真珠では、ほぼ同じ波長にピークが確認された(図5、6)。このことから、テリが良い真珠では実体色が異なっていても反射干渉色の出現パターンが同じであれば、同じ波長にピークが出現することが考えられる。また、当社でG系と呼んでいるパターンの真珠では、400nmと600nm付近にピークが出現する傾向があり、この波長付近に色素等の吸収が確認できる場合には、その特徴が干渉色のピークに隠れてしまうために確認できないことが起こると考えられる。
図5 反射干渉色の出現パターンが類似したアコヤ真珠とクロチョウ真珠
図6 アコヤ真珠とクロチョウ真珠の反射分光スペクトルの比較
反射分光測定において反射干渉色の影響が現れる理由としては、反射分光測定には積分球を利用していることが挙げられる。真珠を積分球に違い状態にすると、通常は光源に面した部分で確認できる反射干渉色が真珠全面に出現するからである(図7)。
図7 積分球にいれた状態の真珠の反射干渉色
以上より、テリが非常に良い真珠では反射干渉色のパターンが反射分光に出現することが確認された。そのため、テリが良い真珠では色素等の特徴が、反射分光スぺクトルにより確認できないことがあるため、着色等の判定にはその点を考慮する必要があると考えられる。