レポート

真珠と模造真珠の干渉色、その発現の違いと要因についての考察(2013年宝石学会発表)

干渉色を起こす薄膜構造をしている真珠箔(図1)と真珠層構造の干渉色の現れ方を平面の場合と球体の場合でそれぞれ比較し、その違いと要因を考察した。

図1 真珠箔の構造模式図
TiO2(水色)の厚さ60~170nm

 

樹脂に混ぜた真珠箔(日本光研工業 PEARL-GLANZE)をガラスプレートに塗布した試料に45度の角度から光を照射すると、反射干渉色と透過干渉色が観察でき、真珠層構造からなる貝殻薄片と同様にダイクロイックミラー効果を持つことが確認できる(図2)。この時、反射と透過の干渉色は補色となっている。また反射の干渉色が、真珠層貝殻の場合は真珠層表面の湾曲に伴って変わり、真珠箔はひとつひとつの粒子の向きによって変わっていることが確認できる(図3)。

 

図2 ダイクロイックミラー効果
左:アコヤガイ貝殻薄片、右:真珠箔

 

図3 左:アコヤガイ貝殻薄片の表面、右:真珠箔表面

 

暗室でテリの良い真珠に光を当てるとその反射は光源像として現れ、真珠全体に透過の干渉色が現れる(図4)。次に拡散光源を真珠に密着させると、光源側半球には反射の干渉色が、反対側半球には透過の干渉色が現れ、反射と透過の干渉色は補色となっている(図5)。真珠層が球体に積層している真珠では、炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶c軸は真珠層の表面に垂直に配向している(図6)。結晶層の厚さが一定であれば、発現する干渉色は観察方向と結晶c軸の角度によって変わるため、同心円状の縞模様として観察される(図5)。

図4 暗室で真珠に光を当てた場合

図5 拡散光源に密着したテリの良い真珠と、その干渉色発現の模式図

  

図6 左:真珠層の模式図 右:アラゴナイト結晶模式図

 

次に真珠箔を用いて製造された模造真珠を拡散光源に密着させ観察した(図7、8)。模造真珠では、反射と透過の干渉色はほぼ補色となっているが、干渉色が強く観察された模造真珠を拡大してみるとその色はまだらで、透過の干渉色は真珠と比べ暗い。

 

図7 模造真珠(貝パール)     図8 拡散光源に密着させた模造真珠

 

真珠を切断し下方より光を当てると、核に比べ真珠層が明るくなり、入射した光が真珠層の中を伝わっていることがわかる(図9)。模造真珠も同様に観察すると、樹脂部分が核よりも暗く、樹脂内を光が伝わりにくく、そのため透過の干渉色が暗いと考えられる(図10)。

 

図9 下方から光を当てた切断真珠   図10 下方から光を当てた切断模造真珠
矢印:樹脂部(厚さ0.05mm)

 

干渉を起こす薄膜構造を持つ模造真珠と真珠は、その構造の違いから干渉色の発現が異なり、真珠の干渉色模様は、ダイクロイックミラー効果を持つ真珠層が球体に積層し、①アラゴナイト結晶のc軸が真珠表面に垂直に配向、②真珠層内を光が拡散しながら伝わる、ということが要因で発現すると考えられる。