まきの厚いシロチョウ真珠には、真珠層のわれが時々見られる(図1)。今回、真珠表面に線状のものが見え、真珠層のわれと同じような現象を起こすシロチョウ真珠(図2)について、観察分析したので報告する。
図1 われのあるシロチョウ真珠(左)と
そのμーCT(X-ray computed micro-tomography)画像(右)
図2 表面に線状のものがある真珠(左)とそのμーCT画像(右)
試料は、真珠表面に線が見えた真珠5個(図3)とした。表面を拡大観察すると、線状のところで結晶の成長模様の方向が変わる真珠(図4)(No.1,4,5)と、成長模様が連続している真珠(図5)(No.2,3)があった。マイクロCTで観察すると、成長模様に境界がある試料は真珠層中層部から表層部にはわれは確認できず(図6)、模様の連続している試料にはわれがあった(図7)。真珠層にある線状のものは、成長模様の境界部によるものと、われが要因と考えられるものがあった。しかし、成長模様の連続は表面のみで、表層部まで成長模様の境界が存在している場合も考えられる。そこで、成長模様の境界の断面構造を観察した。
図3 試料真珠
図4 成長模様の方向が変わる真珠(サンプルNo.1)表面
図5 成長模様が連続している真珠(サンプルNo.2)表面
図6 サンプルNo.1のμーCT画像
図7 サンプルNo.2のμーCT画像
まず、シロチョウガイ貝殻で同様の現象を起こす箇所を切り取り表面の拡大観察をすると、やはり光が明暗に分かれる箇所は、成長模様の境界部であった(図8)。しかし、0.5mmの断面薄片の透過顕微鏡観察(図9)や、電子顕微鏡による結晶層観察では境界部の特徴は見られなかった。次に表面に成長模様の境界線のあるシロチョウ真珠(図10)の断面を観察した(図11)。表面の線の深部にわれはあったが、中層部から表層部にはわれはなかった。結晶層の観察でも境界の特徴は見られなかった。境界部の深部にわれがあり、結晶模様の境界部は結晶の方向が異なると考えられ、われやすいとも考えられる。
図8 波打ったように見える貝殻片(上)
明暗の境界部の表面拡大(下左、右)
図9 貝殻断面の薄片(0.5mm)
図10 表面に線が見える断面観察用試料真珠
図11 図10の断面薄片
見え方と実際の表面状態が異なる例として、アコヤ真珠に時々見られるハンマーマークと呼ばれる真珠がある(図12)。ハンマーで叩いたようにデコボコに見えるが、表面を拡大すると同心円状の成長模様が並び、その境界部が峰のように見えていることがわかる。しかし実際の表面は、同心円の中心が山の頂上のように積み重なっている。成長方向が違うため実際の表面と見え方が異なっている。
図12 ハンマーマークと呼ばれる真珠(上)と
その表面拡大(下)
シロチョウ真珠に成長模様の境界が発生する要因として、シロチョウ真珠の主な養殖場は赤道付近であり、分泌量が多く成長速度が速いことが考えられる。
シロチョウ真珠では結晶の成長方向の境界が、真珠表面に線状のものとして見えることがあることがわかった。結晶の境界部の断面観察方法の模索等、検討課題は多いが、引き続き観察分析を続けていく予定である。