レポート

国産アコヤ養殖真珠の養殖地による微量元素の相違(概要)

アコヤ真珠の産地を判別する方法の確立を目指し、様々な生物の産地同定に用いられているLA-ICP-MS(レーザアブレーションICP質量分析)※1による測定と検討を行った。

※1 試料に含まれる微量元素を測定する方法。試料の極微小領域にレーザーを照射し、気化させ質量分析を行う。
   海水産か淡水産かの判別に用いられる蛍光X線分析よりもさらに微量な元素の測定が可能。

 

(1)真珠の加工工程における微量元素の変化
まずアコヤ真珠の加工による変化を確認するため、加工工程における微量元素の変化を測定した。試料として2015年長崎県で浜揚げされた真珠を用い、加工は一般的とされている方法を真珠科学研究所内で行った。試料は各工程5個ずつ、各工程終了時に抜き取った真珠とした。
①浜揚げ珠
②前処理(アルコール浸漬)後の真珠
③漂白(2%過酸化水素-有機溶媒)後の真珠
④調色(1%染料-メタノール溶媒)後の真珠

測定後、検出量の多かったホウ素(B)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、マンガン(Mn)、ストロンチウム(Sr)について比較した(図1)が、加工工程による大きな差は見いだせなかった。

図1 加工各工程後の真珠における元素濃度の推移

 

(2)産地ごとの真珠の微量元素の差
次に産地による微量元素の違いを測定した。試料は、壱岐、対馬、佐世保(長崎県)、天草(熊本県)、志摩(三重県)、蒋渕(愛媛県)の6つの産地(図2)で2021年冬に浜揚げされた未処理の真珠10個ずつとした。

図2 測定した真珠試料の産地

まずマンガン(Mn)と鉛(Pb)濃度をプロット(図3)すると、志摩の試料は他に比べマンガンが多く、対馬、佐世保は鉛が多いことがわかった。また、蒋渕と壱岐がほぼ重なっていた。

図3 試料真珠に含まれるマンガンと鉛

同様にマンガンとマグネシウム(Mg)をプロットすると(図4)、マグネシウムは壱岐、対馬、佐世保が低く、蒋渕と壱岐で違いが見られた。マグネシウム、マンガン、鉛の3つの元素の比較で、今回の6つの産地の試料真珠は区別することができる。

図4 試料真珠に含まれるマンガンとマグネシウム

さらに統計的処理である線形判別分析でグルーピングを行った(図5)。まず、「志摩」「天草・蒋渕」「対馬・壱岐・佐世保」にグループ分けができ、次に「志摩」「天草」「蒋渕」をグループ分けすることができた。しかし、対馬、壱岐、佐世保は分別が困難であった。

図5―1 各産地の試料真珠の微量元素濃度に基づいた線形判別分析結果

図5-2 志摩、蒋渕、天草産試料真珠の微量元素濃度に基づいた線形判別分析結果

今回の結果は2021年冬の6地区産真珠の結果である。海流や気候の変動などで変化することも考えられるため、今後もこの測定を継続し、さらに海外産アコヤ真珠の分析も加えていく予定である。

 

※詳細は、中央宝石研究所CGL通信No.60をご覧ください。
https://www.cgl.co.jp/latest_jewel/tsushin/60/106.html