連載
コラム

一陽来復 - 歴史を刻む真珠

令和元年11月、JJA日本ジュエリー協会主催、三重県東京事務所の政策調整課 主査・博士(学術) 渥美貴史氏による「真珠博士の深―い真珠の話し 真珠の作られ方を知れば、販売方法が変わる!?」というセミナーを拝聴いたしました。

面白くかつ有益なお話で例えば、アコヤガイは移動したくなると自ら足糸を根元から外して、自足でほふく前進して移動。そこで水に触れると固まるボンドのようなものを体内から出しそれが足糸になる、など興味を引くものばかりでした。とりわけ、私の心に新鮮だったのは、真珠は鉱物の宝石と違い貝から取り出された後も「生き続ける宝石」だという指摘です。ご存知のように、真珠は多くのカルシウムの結晶層を蛋白質でつないでいます。この蛋白質が少しずつ変化をしていきます。講師曰く「低品質の真珠は劣化していくが良い真珠の場合は劣化するのではなく変化していくのです」と。こういった変化を楽しむことが出来るのが真珠であると講師は解説してくれたのです。

現在、日本ジュエリー協会では日本真珠振興会の協力のもと二十歳の真珠(はたちのパール)キャンペーンを開催中ですが、20歳で真珠のネックレスを購入して40年経過し60歳になったら、40年の変化をしている持ち主に寄り添いネックレスもまた共に変化し歴史を刻んでいるのです。私は今まで真珠はひたすら劣化するものと考えておりましたのでお話をお聞きしてなるほどと膝を打ちました。

話は変わりますが12月、銀座三越にてトリハマパールが展示されておりましたので見に行きました。BC3500年 縄文前期の貝塚(福井県鳥浜)から出土した世界的に名高い縄文真珠です。このトリハマパールに関してはH29宝石学会(日本)講演「真珠に起こる劣化現象のメカニズム」の発表で、「(前略)文化財において古墳から出土した真珠は白濁化しており、タンパク質が分解などにより大部分が消失した結果との報告がある(1987年、「鳥浜貝塚」調査報告)(後略)」と聞いていたのでさぞかし白濁した珠かと思っておりましたが実物は5500年の時を経た今も思いのほかテリもあり、この真珠を縄文の人々が手にして以来現在に至るまで歴史を刻んできたのかと思うと感慨深いものがありました。

貝から取り出された後も生き続ける真珠は鉱物の宝石とは全く違ったものと考えなければなりません。持ち主と共に生き、共に変化する宝石なのです。ですから、真珠製品を販売するのなら、変化を楽しむことのできる良質の真珠をお勧めし、そしてお手入れを怠らずいつまでも美しく歴史を共に刻んでくれる人生のパートナーとして大切に扱って頂けるよう商品説明をきちんとしなければならないと決意を新たにした次第です。