今年の11月上旬に長崎県五島列島の中程にある奈留島の真珠養殖場(写真1)を訪れた。
五島列島 奈留島(Wikipediaより転載)
写真1
オーナーの清水氏(写真2)は三重県志摩市神明出身だ。ここ奈留島で10㎜超えのアコヤ真珠(写真3)だけを養殖している。2017年にはラウンド系14㎜のアコヤ養殖真珠(写真4)を生産した実績をもつ。
写真2 生産者の清水氏 写真3
写真4 14mmアコヤ養殖真珠
今回、現地で今年浜揚げされたバロック真珠を見てその大きさに驚いた。一つは長径約27㎜-短径約26㎜×高さ約18㎜で重量7.305gシルバー・グレー系のヘビーバロック(写真5)と、もう一つは長径約22㎜-短径約20㎜×高さ18㎜ 重量5.539gブルー・グレー系のバロック(写真6)である。前者の約25㎜は一部貝殻との癒着跡が見られるが、私が今までに見てきたアコヤ養殖真珠のバロック・シェープとしては最大級の大きさだ。清水氏によると約18ヶ月の養殖期間を経て出来たようである。真珠に軟X線透過検査を行ったところそれぞれ約12㎜と約11㎜の養殖用核(写真7.8)が確認された。軟X線透過像の観察から、通常のラウンド系有核真珠が形成された後に、何らかの生理的な影響により真珠袋内で有機物が多く分泌されたために珠が大きくなったと思われる。
写真5 25mm 写真7 12mmの核(写真5の軟X線透過像)
写真6 22mm 写真8 11mmの核(写真6の軟X線透過像)
養殖に用いる天然のアコヤ稚貝は奈留島で生産者自身が捕獲ネットで採取している。一部の稚貝はやがて2、3年で驚くほど急速に大きくなるようだ。その殻長は大きいものでは12㎝を超え、貝殻は厚く、貝殻内面の窪みも深いスーパーサイズのアコヤ貝(写真9)となる。
写真9 殻長12cmのアコヤガイ
また挿核の際に核と一緒に挿入されるピース(外套膜の小片)も奈留島で自然採取されたものだ。現地で挿核に使用する核は9.7㎜~12.4㎜と異例の大きさだ。こんなに大きな核を貝に挿入できるのは志摩神明に伝わる大珠の挿核技術である。また元気で大きく育つアコヤ稚貝が手に入ることや養殖工程の「仕立て」で抑制や強制排卵を十分に行っていることも関係しそうだ。今回、本当にアコヤ貝産かどうかを検証するため、貝と真珠を持ち帰り弊社研究室で可視分光光度計測定を行なった。結果は、貝殻と真珠にアコヤガイ属種固有*の分光吸収407、430、460nm(グラフ1)*が確認され、アコヤ貝及びアコヤの浜揚げ珠であることが解った。
グラフ1 分光吸収407、430、460mm