まさに —– 失敗の中から見つけたヒントと閃き —– でした。
天然ダイヤモンドをすりつぶす「世界一硬い」ダイヤモンドの開発には愛媛大学入舩教授のオーストラリア国立大学博士研究員時代での実験に伏線がありました。
海底の玄武岩の高圧(15万気圧)加熱実験に失敗した折、溶解した試料の中にガラス様に光るものを見つけた。試料のカプセルにグラファイト(炭素鉱物)を使っていたこともあって、あれ? ダイヤモンドかなと思ったという。
ダイヤモンドは直接の研究対象ではなかったため追究はできなかったものの、ずっと頭の片隅から離れることはなかった。
4年後、愛媛大学助教授に着任して、漸く「あのダイヤモンド」の再現実験に着手する機会を得たが、そう簡単にはダイヤモンドはできなかった。ひとりでこつこつ研究を重ねること5年、1995年にやっと成功した。
予想より高い温度が必要で、装置の限界の2500度まで上げ、25万気圧をかけ、やっとできたという。できたダイヤモンドはミカン色に近く、愛媛の名産に因み「ヒメダイヤ」と名付けた。一粒が10ナノメーターの多結晶で世界一硬い。ナノ領域の多結晶は単結晶より硬くなるわけである。
このヒメダイヤは世界一硬いのに、特殊なレーザーを使うと加工が容易で、表面をつるつるに研磨することも可能であるという。
2003年「ネイチャー」に論文発表、世界的に注目され、今や30グループと研究を進めている。
愛媛大学キャンパスにある地球深部ダイナミクス研究センターには、ヒメダイヤの実験・研究をする大型の実験措置がそろう。いずれも「ORANGE(オレンジ)」や「BOTCHAN(坊ちゃん)」等、愛媛を意識した名前が付けられている。
実験室の名前も夏目漱石をもじった「創石実験室」。
この環境での技術開発の結果、1センチ大のヒメダイヤを生み出せるまでになった。
切削工具としての商品化の他、高圧下で原子の結合を見る実験にも活用できるという。
惑星深部の構造や超高圧高温下での物質の変化の研究を専門とする入舩教授、「ヒメダイヤを用いれば、更に高圧をかけられる実験装置を作ることができ、地球外の惑星の研究にも役立てることができる」という。
世界中の感動を呼んだ「はやぶさ1」に続いて、今「はやぶさ2」は「りゅうぐう」の資料採取中であり、既に第一次の資料採取に成功している。まるで少年時代の夢物語のようで、来年「はやぶさ2」が地球帰還時に焼失するに及んではきっと胸に迫るものがあろうが、帰還した試料の分析では、宇宙の成り立ち、地球誕生と歴史の解明に大きなヒントを与えることが期待される。そこにはヒメダイヤの装置の活躍の場面があるかもしれない。
真珠の代表的な養殖生産地である愛媛県は、又異色のダイヤモンドの分野でもその特色を発揮している。真珠とダイヤモンドのご縁を感じます。
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コラム
真珠の散歩道 - 真珠のふる里から 「世界最硬」のダイヤモンド