房総半島は冨津岬の産をはじめ、「江戸前」で知られた千葉県産の海苔が危ない。
この数年、養殖に異変が起きて、収穫量がピーク時の4分の1に減ってきている。
戦後数年~20年の間、東京湾は戦後復興を優先するコンビナートの工場排水や家庭をはじめとした雑排水による水質汚染で魚種全般にわたり長く不漁が続いたが、行政面での工場の排水規制、雑排水を含めた湾岸の下水処理が進んで、水質は大いに改善され、昭和50年頃には魚種とともに水揚げ量は復活し、市場には活気が戻り、料亭の板場には「江戸前」が拡がり、庶民の台所にも豊かさをもたらした。
その中で江戸前の海苔も順調な生産を続けた。
「海苔は秋から翌年の春にかけて育てるが、近年は海水温度が上がって、海苔の養殖が厳しくなった。併せて3・11の東日本大震災で海底の砂が移動して魚介環境が変わった。」と現地海苔生産者はいう。
千葉県産の海苔は53年度の6億枚(全国の約1割)をピークに徐々に減りはじめ、この春には1億4千枚にまで減少が続いている。
海水温の1度の上昇で深刻な打撃を受ける。秋の水温が1度高いだけで種付け(育苗)が数週間遅れ、結局生育期間が短くなり、併せて水温の上昇が赤潮の発生を招き、栄養が不足して海苔の色も薄くなるという被害をはじめとして品質低下が著しい。
併せて、近年東京湾岸の下水処理が進み水質が浄化され過ぎて、藻の成育に必要なリンや窒素が不足して繁茂せず、藻を主食とする魚が、海苔を狙い、若いうちから食する被害も不作の理由の一つであると言う。
兵庫県「明石」は鯛、蛸に代表される海産物の宝庫であり、早い潮の流れと豊富な栄養分で育つ海苔は、黒くて艶があり、香りの良さも特筆される名産品である。明石を中心に垂水から東播磨にかけて 海岸から沖合100~300米には海苔筏が見渡せる。
果たして、本年ここでも冨津岬と同様の、しかも、急激な減産に生産者は頭を抱える。
佐賀、熊本に次ぐ国内第3位の明石も、薄い茶っぽい不出来な、商品化できない産物に悩む。
佐賀、熊本も質、量ともに落とし、国内総生産量62億枚で、46年振りの凶作が確定していると関係者は今後を懸念する。
又、紀伊半島西海岸の鳥取の庄近辺では、牡蠣の養殖が始まっている。いまだ緒に就いた段階であるが、当事者たちはその拡大と販路に期待をもって励んでいる。
大いに応援したいところであるが、瀬戸内海の牡蠣養殖事業者の間ではこの地の栄養塩の不足を心配する。水質改善の行き着くところが牡蠣養殖には仇となる皮肉な現象である。
さて、挿核もほとんど終了した真珠養殖事業所の経過は如何なものであろうか。
対馬、愛媛の幾つかの事業所に問うてみた。一様にまだ何とも言いようのない状況らしいが、総じて沖出し後も悪い報せがないのは一安堵である。越しものもまずは想定内という(意味深長な表現ではあるが、悪くないと解釈したい。)
異種貝での真珠養殖(アコヤ貝にマベ貝のピース挿入・・・愛媛大学論文)が往年の珠入れ名人の間で話題となって、聴く耳にしばし時間を忘れた。
アコヤ貝の異種貝細胞への拒否緩和にどのような手法を講じたのであろうか。