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コラム

真珠の散歩道 - お酒と米と神棚と

海外での日本酒ブームを後押しする国内の動きは、まさに目を見張るものがある。
―― 慶長5(1600)年頃、山陰地方の戦国武将山中鹿之助の長男が、伊丹で濁り酒「どぶろく」とは異なる、澄んだ清酒「双白澄酒(もろはくすみざけ)の醸造方法を生み出した ―― との記述の残る兵庫県伊丹市が「清酒発祥の地」を掲げ、近隣阪神間の尼崎、西宮、芦屋、神戸市を巻き込み、日本遺産認定を目指す準備会を発足させ、認定に不可欠な文化伝統の具体的ストーリー作りを進めている。
「宮水」で言わずと知れた日本一の酒どころ「灘五郷」がある西宮、神戸では国内清酒生産量の4割近くを占め、尼崎は鏡開きで知られる菰樽(こもだる)の生産量が全国一で、芦屋には酒造会社「櫻正宗」創業家の歴史的な別邸が残り、酒造りの文化が匂う。
とりわけ、清酒発祥の由来を記した石碑や、現存する国内最古の酒蔵「旧岡田家住宅」を構成文化財として、「伊丹の清酒が灘五郷の酒づくりに影響を与え、世界で高い評価を受ける現在の日本酒文化誕生につながった」というストーリーを構想し、阪神間を「ザ・マスト・プレイス・オブ・サケ(日本酒に欠かせない場所)」と世界に伝えたいという。
又、一歩早く、東広島市が昨年「吟醸酒のふるさと」として日本遺産に申請済みであり、早晩にその認定が期待されている。
「清酒発祥の地」は奈良市でも標榜していて、毎年10月1日「日本酒の日」に、市と奈良県酒造組合と共同で約30の蔵元が自慢の銘酒を用意して「清酒発祥の地 大和のうま酒で乾杯」と銘打ち、PRを強力展開している。
更に愛知県でも「醸造文化」を新たなストーリーで、再申請する動きも継続されている。
夫々の主張により、更に熱気高揚し、日本酒そのものとその文化が広くそして深く世界へ浸透していくことであろう。

一方、上記日本酒ブームの中、「酒米の王者」と呼ばれる山田錦に続けと、各地で酒米の新品種開発競争も過熱している。
山田錦は上品な甘みの日本酒に仕上がるとして、生産量は酒米全体の3割以上を占める。ただ、高さ1.3メートルに達する稲穂は倒れやすく、カビ寄生の「いもち病」にも弱く、
それゆえに新品種の開発が求められてきた。
山田錦発祥の兵庫県では県酒米試験地で、昭和61年に補完する品種と山田錦を交配し、品質安定まで30年以上かけてようやく昨年11月に、新品種「Hyogo Sake 85」を登録出願した。
すでに、本年県内3社が「85」の酒の商品化に成功し、期待に応える評価を得ている。
又、熊本県では平成26年に「華錦(はなにしき)」、栃木県では「夢さらら」、京都府では「京のかがやき」が開発され、この他にも兵庫県は更なる新品種(名称未定)による製品を発表している。
国もこの開発を支援しており、その成果でもある「85」の清酒を専ら海外への販売を優先するのはこの背景があるからである。併せて、今後の日本酒の輸出増には、山田錦と品質が同レベルの新品種を開発栽培し、その生産を安定させることが不可欠として、兵庫他5府県に3年間3億円の開発費を補助している。

古来、事のはじめと「お神酒」の関りは、日本の歴史そのものである。
真珠の養殖地域では、夫々の当年の気候と母貝の仕立て状況により挿核スタートは異なるが、愈々、新しいシーズンの「核入れ初日」を迎える朝には、社員揃って神棚を前にし、「滞りのない挿核作業と 順調な生育のための穏やかな日々の営み」と「社員の健康」を祈願する。
神棚にはお神酒が奉げられ、穢れなき新酒の香りは、やがて海からの贈りものを招く。