連載
コラム

父が娘に語る真珠養殖法の話 48 (2018年8月号)

災害の多い月 

7月は、台風7号から始まり、梅雨明けの様な、曇天から始まりました。その後も大洪水に見舞われ西日本の各地に甚大な被害を及ぼし、海にも川からの流木や家庭ゴミがしばらくは流れ寄っていました。
月末も、伊勢から九州と台風12号が走り抜け、台風から始まり、豪雨あり、台風で終わる災害月の様な気がします。
その上、夏本番がやって来ましたので、流石に暑いと感じる日が続きました。朝が明けるのも早く、朝日が顔を出すと途端に暑く感じ、今日も暑くなりそうだと思うと、爽やかな気持ちも失せてゆきます。
昼間になると木陰や軒下の陰を選んで歩く様になります。そんな日でも、学生達は熱い日差しの中、汗で黒光りの顔で元気に県大会に向けて練習をしています。若さは何物にも替えがたいエネルギッシュで、羨ましく思いながら、風通しの良い木陰で眺めています。
この歳になると、この晴天に軽い運動でもしようものなら甲子園に行くより病院か墓場に行きかねません。

台風7号の風雨で濁る海

台風一過、前日とは打って変わった海

大雨後の海には流木が漂う

食べたいと思うものを食べる

久し振りにリンパ腫の従業員の見舞いに行ってきました。抗癌剤治療で大分良くなっているのかと思って行ったのですが、髪は薄くなり白髪が疎らに生えている程度、筋肉も衰え老人の様な肌になっていました。それでも、一時期よりも喉の調子は良くなったと言っていましたが、かすれた声は張りがなく弱々しく聞こえました。
何が一番困っているかと尋ねると、食事が美味しくなくて食欲が湧かないと言いました。生物は一切食べる事は出来ないそうで、それ以外は大丈夫との事。何が食べたいと尋ねるとラーメンが食べたいと言います。私が病院近くのラーメン屋に昼食を食べに行き、食べ終わる頃、麺を固茹でで一杯頼みテイクアウトで病院に持って行きました。本人大喜び、サプライズで久々のラーメンに感動し、味に大絶賛し、あっという間に完食。
ご馳走とは、食べたいと願う物を食べる事だとつくづく思う光景でした。「いやぁ、ごちそうさまでした。食べたくて、食べたくて堪らなかったんです。美味しかったです。最高の味でした。身体に元気が出ました」と喜んでくれました。
「ラーメン屋の女将さんが、早く治って食べに来てくださいと伝えてくれと言ってたよ」と言うと「今度行かれたら、是非食べに行きます。と伝えてください」とニコニコ顔。見た目にも元気が出てきているのが分りました。
「また来るから、それまでに今度は何を食べたいか考えとけよ」と言って別れました。

底引き網の天然車エビ

旬の赤エビ、味付けして唐揚げは酒の友

完熟無農薬トマトは味も香りも最高!

感謝のありがとう

私が家に着いてしばらくすると、電話が掛かって来て、お礼を言う律儀な男です。「気遣いは良いから、こんな時は一杯甘えてくれ」と言って電話を切りました。こんな時でも、私に気を遣ってくれる…。胸に熱いものが込み上げてきました。「ありがとう」と言う言葉をしみじみと噛みしめました。
「ありがとう」の反対語は?「当たり前」。
いままで考えた事もありませんでした。「ありがとう」は、「有り難う」と書きます。なかなか有る事が難しい、奇跡の様な出来事に遭う事だそうです。
こんな素晴らしい、こんな良いもの、こんな嬉しい出来事、美しいものに対して「有り難う」というのだそうです。こんなに、お互いが、お互いに感謝する「ありがとう」この繋がりを大事にしたいと思いました。

楽しいとラクは違う

先日、中学の同窓会がありました。若かりし頃は、見た目の良い男女がモテましたが、この年齢になると見た目では分からない美しさに魅力を感じます。若い頃に今の目を持っていたら結婚に失敗する人も少ないのでしょう。でも中には今でも見た目でしか見えない同級生もいます。(笑)
長年生きていると、いろんな人と出会います。みんな生まれも、育ちも違い、地位も経済力も違います。でも、皆楽しい人生を送る事が出来ると言う平等は与えられていると思います。みんな、幸せになりたい、幸せを手に入れたいと願っています。初詣でそう願う人は多いはずです。でも、幸せを願う前に幸せを感じる事ができる心を持つ事が出来なければ幸せが来ても感じる事ができません。
自分のやりたい事を出来る人生は幸いですが、殆どの人は生活の為に仕事をする人生だと思います。そんな人生を生きていると、無意識に、その中で楽しみを見つける様になります。しかし、本当に自分がしたい事は何だったのか?
ある人が自分の人生から「お金」を抜けば人生で何がしたかったのかが分かると言っていました。自分のしたい事を出来ると言うのはどんなに辛くても楽しく出来ます。ラクをしようなどと考えません。仕事をしている時、ラクがしたいと心が動くのは、本当に好きな仕事をしていない証拠、お金の為に好きでもない事をやっているだけなのかもしれません。
そう考えると、楽しいとラクは同じ様で全く違うという事に気付きます。人生において、仕事を楽しんでやれる人と、ラクをして生きる人、どちらが幸せなのでしょうか?

人事を行う

の前、お話した、中年の従業員が長期療養に入っています。この穴を埋めるべく同期入社の性格の違う二人のどちらかを責任者にしようと娘夫婦が考えた様ですが、帯に短し襷に長しで悩んだ末、結論が出ず、相談にきました。
こんな時、私の判断材料になるのが、
① 仕事の処理能力。
② 人望、部下からの評価。
③ 優しさ、正直さ、発言力等の個性
④ 片方が出世すると、片方が負けたと考え退職する事例が過去にもある。
上記の事項で判断します。
双方の個性を活かした人事は出来ないか、と三人で相談しました。
そして、出した結論は、「未来の会社の両輪となる様、双方の個性を活かし、且つ更なる人間形成を目指す」と言う事で、両名が信望している工場長付の責任者に任命しました。1名は、療養中の責任者の後任とし、もう1名は、工場長補佐として養殖全般の業務責任者とする。
2年後、互いの職務を交代し経験を積ませる。前者は、無難に仕事を遂行し部下の育成もしてくれるでしょう。後者は、尊敬する工場長に付き人間的な指導を受けながら成長してくれると思います。
父から継いだ習わし
しかし、先の事は誰にも分かりません。問題が起きる事も覚悟していないといけません。仕事をする上では常に次の一手を打てる経験と情報を持っていなければなりません。
経営する者は、気が休まる事がありません。
心が折れそうになる事もあります。自分の努力でもどうする事も出来ない事も多々あります。そんな時は、目に見えない力に頼るしかありません。爺さん、父親から引き継いだ習わしを私もしています。
それは、毎月1日と15日に、家の神仏、会社の神棚、恵比寿様に塩・米・酒をあげ海上安全・健康・大漁満足・家内安全・交通安全・・・諸々の事をお願いし、家と会社の回りの要所に塩を撒きお祓いをする事です。
普通の日も、水を毎朝替え、朝晩拝んでいます。

神仏の後ろ盾

自分は、神仏の後ろ盾があるのだから守られていると信じる事で弱い心を奮い立たせているのかもしれませんが。
従業員にも幸せに、怪我なき様にと願います。特に入院している従業員の為に新たに「延命十句観音経」も唱えています。
観世音 南無佛 与仏有因 与仏有縁 仏法僧縁 常楽我常 朝念観世音 暮念観世音 念念従心起 念念不離心
元気になって帰ってくれる事を願って。