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コラム

パールジャーナル (2018年8月号)

真珠養殖発祥の地はどこ?

以前にこちらで、日本と豪州との「真珠養殖発祥の地」問題をちょっと紹介しました。では読者の皆さんは、日本国内における「真珠養殖発祥の地」はどこかご存知ですか?まあ、99%以上の方が「三重県」と答えるかと。同じ三重県でも「鳥羽だ!」や「志摩だ!」、あるいは同じ志摩でも「的矢だ!」など意見が分かれる可能性もありますが・・・とにかく、「三重県」という答えに異論はないと思います。ところが先日、ある調べ事をネットで行っていたところ、宇和島市に関するHPに「真珠養殖発祥の地」との文字が・・・ということで、調べてみると沢山の「真珠養殖発祥の地」があることがわかりました。今回は各地を紹介してみたいと思います。ちなみに、筆者は三重県志摩市出身という事実をお忘れなく(笑)

まずは長崎県。理由としては1907年から見瀬辰平に協力を頼み、三重県などよりも先に真円真珠の養殖を大村湾にて始め、1908年には明治天皇へ日本初の「真円真珠」を献上したと説明があります。真円真珠養殖の実用化がこの地で進んだという点で、かなりの説得力があるかと思われます。「真円真珠養殖発達の地」であることは間違いないかと。次は高知県。1916年に藤田昌世(東大三崎臨海実験所OB)が宿毛(すくも)市にて、5mmを超える当時としては大粒の真珠養殖を確立し、国内外に衝撃を与えたことから。1920年の水害がなければ真珠の歴史が変わっていたと悔やむ文章も。真珠養殖の歴史に大きな功績があったのは事実で「大粒真珠養殖発祥の地」と名乗ることは問題ないかと思います。そして宇和島市。根拠として「生産量日本一」や「高品質」などが紹介されているだけで、ちょっと「発祥の地」と言うには弱い感じですね。ここは堂々と、「養殖真珠生産日本一!」と正攻法でPRを行ってもらいたいと思います。もっともこの3か所に関しては、あちらこちらのHPなどの紹介文は「真珠養殖発祥の地とも言われている」などの謙虚な表現が多いのが特徴です。

一方、神奈川県三浦市に関してはちょっと様子が違います。例えば三浦新聞のHPでは「真珠養殖発祥の地は三浦だった!」との文字が躍っています(2017年11月8日 特集記事)。東大三崎臨海実験所の初代所長であった箕作佳吉(みつくりかきち)教授が御木本幸吉に助言を行ったこと。1908年には三浦市油壺にて養殖を始めていること等が紹介されています。西川藤吉とも縁のある場所ですし、「真珠養殖技術発展の地」と名乗っていただくには十分な歴史があるかと思います。ちょっと番外編になりますが、沖縄県石垣島は「黒蝶真珠養殖発祥の地」、滋賀県草津市は「淡水真珠養殖発祥の地」とそれぞれPRしています。ここに異論は全くありません。

これらの情報は、各地の特色や産業をPRするHP等から拾ったものを検証しました。ちょっと意地悪な評価を下した感も否めませんが、決して悪気はありません。各地のPRをむしろ微笑ましいと思っています。それぞれの地に真珠の歴史があり、現在の日本の真珠産業の礎になってきたのは事実だと思いますので。その歴史には敬意を表したいのが本音。また、特許論争が巻き起こったように、真珠養殖産業の初期の歴史は、少々複雑な大人の事情がチラホラ見受けられるのも事実かと。「真珠養殖発祥の地は日本」が対外的には一番重要な情報で、これは各地の全てが賛同してくれるかと思います。