真珠業界は現在2正面作戦を強いられています。「陸」の商売はもちろん「コロナ禍」。そして「海」の方も原因がはっきりしない「貝のへい死」問題に。今年も三重や愛媛などで海水温の上昇と共に貝のへい死が観測されています。このへい死の原因として「ウイルス説」が有力視されていますので、「陸」と「海」の両方が目に見えない敵と戦っていることになります。さて、金融業界などで「ブラックスワン」という言葉が時々使われます。もともとはヨーロッパで「白鳥」しかいないと思われていたところ、オーストラリアで「黒い」スワンが発見されて驚かれたことが語源。意味としては金融ショックや自然災害など「予期せぬ出来事が発生し大きな衝撃を与える」を指す言葉となります。金融ではリーマン・ショックや英国のEU離脱などが事例。このコロナ禍と貝のへい死が極めつけの「ブラックスワン」なのは確かなのですが、この同時期の出現は「偶然」でしょうか?2つの問題は、原因が「ウイルス」との共通点がありますが、単純に考えれば関連性が無いように思えます。しかし、その原因の一つが地球環境の変化と仮定するなら「必然」ということになります。
筆者の地元で、山を切り開いて新しい道路を作ったところ、イノシシがその道を使って頻繁に人間の居住区に現れるようになりました。中国でなぜ新たなウイルスが人間に拡散したのか?日本の海でなぜ新たなウイルスが拡散したのか?先ほどに紹介したイノシシと同じ話のような気がします。例えばシベリヤの永久凍土が溶け始めているのは皆さんご存知だと思います。永久凍土にはそれこそ「過去」に発生した、しかし人類にとっては未知の病原菌が閉じ込められている可能性があると言われています。あるいは日本の海水温の上昇が、外来ウイルスの活動域を広めている可能性も。
ダーウィンの適者生存論ではありませんが、大きな事変は大きな改革の機会となります。以前にも書いたかと思いますが、歴史の大転換期の一つは「戦争」。このコロナ禍を「ウイルスとの戦争」と考えるなら、私たちは歴史的な大転換期に直面していることになります。真珠業界を見ても、EC(電子商取引)の活発化など、これまでと違ったアプローチでコロナ禍であっても好成績を上げている企業があります。販売方法が大きく様変わりしてきました。そして宝飾業界でもエシカル性(倫理)やSDGS(持続可能な開発目標)が盛んに導入されるようになってきています。「ブラックスワン」の出現と合わせて、これらの動きや流れも「必然」なのでしょうね。
真珠養殖業界も守るべき伝統は維持しつつ、大きな変革がさらに求められるような気がします。養殖の現場では20年前に「赤変化現象」による貝の大量死で使用する母貝の大転換を強いられました。今回のへい死でも対処法を早く見つけ出してほしいと思います。短期的には海水温の上昇抑制や餌の増産など、我々には不可能な難題ばかり。しかし「Jリーグ100年構想」のように、今後の真珠養殖産業の継続を目指して、一人一人が出来る地道な行動は多々あると思います。その自覚を促すきっかけにこの「ブラックスワン」がなることを祈っています。
連載
コラム
パールジャーナル ーブラックスワン