連載
コラム

真珠の散歩道 - 自 ら の 課 題 は 未 完 の ま ゝ に

真珠科学研究所による真珠のテリ修復保全技術に<マイクロ パーマネント処理>がある。
仏像をはじめ、歴史を語る木工彫刻等の文化財の保存修復時における「充填」に発想を得た技術である。
業界での評価も高く、末端顧客と接する全国小売店をはじめ各地百貨店宝飾テナントからリピート要請が続いている。
この「充填」処理業務に就いた日々、テリの修復効果がそれぞれに確かに認められるも、顕著なケースとそうではないケースがあった。
この効果の違いは、対象となる真珠個々の構造上の違いにあるとして、その境界を見極めるべく、社内在庫珠(両孔)の中からテリ、巻、形状別に、幾つかのサンプル区分をしてテストにチャレンジしたことがあった。しかし、在庫は近年の珠が主体であり、年代を経た珠となれば難しく、効果の差異が生ずる明確な構造上の線引きは出来ぬままに、C&Eセミナーではその効果の有効性のみについて、実際のサンプルを示して説明し、理解を得るに留まった。

C&Eセミナーでの<マイクロ パーマネント>処理と効果の説明は、略述すれば下記となる。
「製品化された真珠は、幾歳月の保管と装用の間に、乾燥と湿潤状態を繰り返し、やがてアラゴナイトと接するコンキオリンの乾燥収縮によって、真珠層間に微細な空隙が発生する。やがて、この空隙が拡大するとこの部位で光は乱反射し、深部への光の通過が遮断されて、テリの減少を来す。
この減少したテリの復元手法が、マイクロパーマネント処理である。
即ち、この空隙に減圧、復圧操作によって液体化合物を充填し、その後に加温固着させて、本来の光の通過を可能とし、併せて装用で発生した真珠表層溶解による乱れを研磨修復して、テリを復元する。」

「テリ」という干渉効果は、二つの成分に分けて考えると判り易いという。(小松理論)
1つは<輝き>の成分であり、いま1つは<色>の成分である。
<輝き>はアラゴナイト結晶の規則正しい配列の産物であり、養殖時の貝の健康度次第。
<色>はアラゴナイト結晶の厚さによって決まり、貝の成熟度による違いであるという。
勿論、この色とは干渉色でいう色であり、実体色ではない。

顧客の手許で幾歳月を経た、ネックレスのマイクロパーマネント処理を実施した折、
顧客は見事に復元された<輝き>を認めつつ、「チューリップのピンクカラーが、バラのローズカラーの色合いとなった」と端的な表現をして、しかし、これはこれで実に美しいと目を細めて喜んだ。
アラゴナイト内層に変化があった訳ではなく、<輝き>に変わりはなく、又干渉効果による<色>の成分が変化したわけでもない。コンキオリンの経時変化がもたらした黄味が強く作用するところであると理解していただいた。とても良質な真珠であった。
ふと思い浮かんだことがある。
山岸昇司氏の連載コラム「一陽来復」で取り上げられた「低品質の真珠は劣化していくが、良い真珠は劣化でなく変化していく」という渥美博士の言葉です。
このことも含まれるのであろう。
マイクロパーマネント処理によってテリの復元効果の度合の激変する境目は? 条件は?
それともグレーゾーンとして捉えるのが理解し易いのか、未完のままである。