連載
コラム

パールジャーナル -コロナ禍の中で考える

さて、連日ニュースを独占しているコロナ禍。2か月前にもこの話題を紹介しましたが、事態は悪化の一途。4月15日現在、世界の感染者数は約200万人。犠牲者数も12万人を超えています。中国本土での感染爆発は終息したものの、欧米の爆発が収まりません。感染者数の最大は米国となり、伊、西、仏、英などでは死亡率が10%を超えています。日本の感染者数もオリンピック延期発表後に急増し、現在約8千人(クルーズ船を除く)で、死亡率は1.8%。そんな中、4月8日に緊急事態宣言が東京など7府県に発令されました。都内のデパート宝飾売り場や宝飾店も休業要請を受けている状態。
真珠業界への影響は大きく、前回に3月の香港ショウが5月に延期になったと紹介しましたが、再度8月に延期になりました。IJKも同様に8月に延期。6月の香港ショウも、もし開催されても日本人が香港に入国できるか否かは流動的です。3月と4月に東京、神戸、伊勢で毎月開催予定されている製品入札会は中止に。神戸や横浜で予定されていた南洋珠や黒蝶珠の入札会も全て延期になっています。タヒチでは、中国人技術者が入国できないので技術者が不足しているとの情報もあります。東京の街を歩いていた外国人が消え、80%以上の真珠を輸出していた香港へのアクセスも途絶えてしまいました。
現状を米国大統領やフランス大統領は「戦争だ」と記者会見で答えています。日本でも「これは第三次世界大戦」と表現する解説者が現れています。さて、歴史の転換期の大きな要因が「戦争」であることは歴史学者の多くが同意することでしょう。この「コロナ戦争」で、真珠産業だけではなく観光業や製造業までもが頼っていたグローバリゼーションがあっけなく崩壊してしまいました。国境が封鎖され、多くの国への渡航に制限がかかり、中国の工場がストップすると日本の生産業も連鎖で止ってしまう・・・天地がひっくり返るとはまさに今の状態です。
現在の「コロナ戦争」の終わりは「いつ?」「どの様に?」の2つにおいて全く不透明ですが、それでも必ず終焉があります。問題は「戦後」です。今の日本の政治体制が構築されたのはまさに「戦後」。冷戦の終結はソビエト連邦やユーゴスラビアを崩壊させました。「戦後」には、高度にグローバル化した世界経済が以前とは全く違う世界になっている可能性もあります。国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ専務理事は4月9日、新型ウイルスのパンデミックにより、世界経済は1930年代の大恐慌以来、最悪の危機に直面するとの見通しを示しました。バブルの崩壊と失われた20年、阪神淡路大震災や東日本大震災、あるいはリーマンショックや9・11などを経験した我々ですが、大恐慌の経験者はもうほとんど存命していないかと。この90年間に経済学も進歩していると思いますが、それでも未経験な世界を目にする可能性は否定できない状況です。
インバウンド需要や輸出に支えられてきたこの10年の真珠業界。まさにアベノミクスに乗っかった形であるのは間違いありません。戦後は形が大きく変わるのか?この先行きが不透明な中で我々にできることは何もありませんが、変化した時代に対応できるような柔軟性だけは、せめて心でだけでも持っておいた方が良いと思われます。もっとも人類史を通じて、人々を魅了してきた真珠の魅力はどんな世界の中であっても不変だと思います。この事実を信じて、前を向いて行きたいと思います。