真珠科学研究所創設時に、創始者の小松博氏が掲げた目標(同レポート2参照)の中の、「テリを持続する」ことを実現するためにも、日々研究を続けていました。
「テリを持続する」とは、購入した方々が真珠を身に着けたり、保管したりして年月がたっても、購入当時のテリを保持している、ということです。また、使用中の汗などが付着したまま保管して表面が荒れてテリが悪くなった真珠を磨くことで、元の真珠のテリに戻す、ということも同時に考えていました。ケースやクロス類の開発、販売もその研究成果のひとつですが、真珠を連のまま磨く「パールリフレッシャー」の開発には紆余曲折がありました。
図1 汗などで汚れた真珠とその表面(左)とクリーニング後の真珠と表面(右)
お客様のネックレスをお預かりし、糸を切り、ガラ磨きなどを行いクリーニングすることは、それまでもいろいろなところで実施されていました。しかし、氏が目指したのは、お客様の目の前でネックレスのまま磨き、糸換えしてお返しする、といった研磨機でした。
まず考えたのは、バフ磨きです。研磨剤が練りこまれた布を円形に切断し、何枚も重ねて回転させる機器でした(試作機、図2)。しかし、ネックレスの珠と珠の間が上手く磨けていませんでした。どうにも行き詰っていた時、ヒントをくれた方がいました。他の分析装置の開発でお世話になった日本大学の李先生です。人間の歯はブラシで磨いているでしょう、ブラシを考えてみては?と。人間の歯もカルシウムが主成分で、同じように歯と歯の隙間があり、形態は曲線です。では、どんなブラシを使えば良いのか。そこで、ブラシを探してくださったのが、小松博氏が“ドラえもん”と呼んでいた安藤さん※です。安藤さんも、他の分析機器を試作していた時にお世話になった方でした。研磨剤が練りこまれたブラシがある、と取り寄せてくれました。最初のブラシは硬すぎて真珠が傷だらけになったなどの経験を経由して、最適のものが見つかり、いよいよ機器作製になりました。
図2 試作機
この後も、店頭に置くことを意識しすぎてデザインと全自動にお金をかけて高額になってしまった1号機、デザイン性を重視つつもコンパクトな縦型を作ったら、ガタガタと振動が大きかった2号機(図3)を経て、現在のパールリフレッシャーが完成しました。(その間も小さな修正は繰り返した)
図3 縦型2号機
真珠をクリーニングするには、まず、クリーニングできる真珠かどうかの「診断」ができなければいけません。また、ネックレスの糸が切れそうになっていたら換えてから磨かなければいけません。これらの技術を取得してから、「真珠のクリーニング」を行います。
図4 診断風景
真珠のクリーニング開始にあたり、大きな原動力となった坂本顧問(当時)
図5 現在のパールリフレッシャー
日本大学理工学部・真珠科学研究所共同開発
診断、糸換えの技術をセミナーで講義し、真珠のクリーニングの方法を伝え広めていくことが、小松博氏の描いた真珠の未来です。
このようにいろいろな専門家の助けを借りながら、様々な研究開発を続けていきました。
※CIS 安藤弘さん :こういう機械が欲しい、と相談すると、設計して作製してくださる方でした。なんでも相談すると作っていただけるので、こう呼んでいました。