レポート

真珠のテリと結晶層との相関に関する研究 ー2009年宝石学会発表

1.はじめに
真珠表層における光の干渉現象(テリ)と結晶層との相関について、以下の2点にテーマを絞り、ホワイト系アコヤ真珠を試料として研究をおこなった。
1) 結晶層の厚さと干渉色模様との関係
2) 結晶層の乱れと干渉の強度との関係

 

2. 結晶層の厚さと干渉色模様との関係
真珠結晶層における反射の干渉現象は、式1、式2(スネルの公式)より説明することができる。式1から、入社角度に応じて、d(結晶層一層の厚さ)が、発現する反射の干渉色λを決定する。
実際にサンプル珠の干渉色模様を観察、撮影し、さらに真珠を半分に切断して結晶層の厚さを電子顕微鏡(SEM)で計測した。

式1 相関反射による光路差の式
nλ=2dμcosθ(nは自然数)
n:干渉の次数   λ:強められる光の波長
d:結晶層の厚さ  μ:結晶層の屈折率
θ:屈折角
式2 μ=sinθ/sinθ´

サンプルとして、干渉色の代表的な3パターンである、RG、G、R系の3つのアコヤ真珠を用いた。ここで言う干渉色とは、真珠を白いクロスの上に置いて情報から光を当てた時、光源像の周囲に見える色模様である。これは透過の干渉色である。上述の式1は、反射の干渉現象についての式であり、それを観察するために、専用装置であるオーロラビューアーを使用した。その精密写真が図1の下半球の像である。
続いてSEM分析より、表面から10μmまでの結晶層の厚さの平均値を算出した。結果は、RG系:0.36μm、G系:0.44μm、R系:0.33μmであった。
結晶層の厚さの値を、式1に代入し、反射の干渉色模様の理論値を描き出した(図2)。下半球が、理論値λの色模様であり、上半球はその補色である。
図1と図2を比較してみると、細部に至るまで、双方の色模様は一致していることがわかった。
ゆえに、真珠の反射の干渉色は、結晶層一層の厚さ(その平均値)によって決定されると言える。

図1 オーロラビューアー上のホワイト系アコヤ真珠 左:RG系、中:G系、右:R系

図2 結晶層の厚さから算出した干渉色の色  左:RG系、中:G系、右:R系

 

3. 結晶層の乱れと干渉の強度との関係
用意したサンプルは、RG・G・R系の3パターン、それぞれテリが強・中・弱の合計9つの珠である。このサンプルは、すべて一定以上の強度の干渉現象が確認される。
これら真珠の干渉の強度の違いは、どこからあらわれるのか、先の実験同様、サンプル真珠を切断し、結晶層の重なり具合をより精緻に分析してみた。
干渉の強度と結晶層の厚さの関係を示したのが、図3のグラフである。干渉色パターン別に、結晶層の厚さの標準偏差をあらわしている。グラフの左目盛で下方に行くほど、結晶層の厚さが均一に揃っていることを示す。干渉の強度が強い真珠ほど、層の厚さにバラつきが少ないことが読み取れる。

図3 各干渉色系の結晶層の厚さの標準偏差(ばらつき)

理由は次のように推測できる。仮に各結晶層の厚さが均一に揃っている場合、各層で発現する干渉色λは、上述の式1から、同色である。結晶層の厚さが不揃いの場合、各層で異なる波長の干渉色が発現し、それらが混ざり合って互いに打ち消し合う(光の場合、色が混ざると白色に近づく)。したがって、ある程度の干渉が発現したとしても、相対的にテリは弱くなる。
第2の実験から、真珠の干渉の強度は、結晶層の厚さの整合性に起因することがわかった。厚さが揃っている真珠ほど、干渉の強度は強くなると言える。