レポート

放射線照射量の違いによる真珠黒色化の物性変化についての考察(2010年宝石学会発表)

放射線照射による真珠の着色処理真珠は、ブルー系真珠の需要とともにその流通量が増えている。また、強い光を透過させ内包された有機物の有無を確認することで、放射線照射処理されたブルー系真珠はほぼ判別できることが報告されている(1987年「真珠鑑別論序説」小松)。しかし、近年ごく微量の放射線を照射した処理真珠が流通しており、その判別は極めて困難な場合もある。その判別法の確立のため、今回、真珠に放射線を照射しその照射量による物性の違いを観察、測定したので報告する。
供試試料として、①白色核25個8組、②直径7~7.5mmアコヤ真珠短連(30個)8本、参考試料として、③ピンクガイ貝殻を用いた。
放射線照射は、財団法人放射線利用振興協会のコバルト60ガンマ線照射施設で行った。真珠の放射線照射による着色は、過去の報告(1959年国立真珠研報,沢田)より照射量30KGY(キログレイ、1GY=1J/kg)程度で行われることが多い。したがって今回の実験における照射量は、試料①,②について0,0.03,0.3,1,10,30,60,100KGYの8段階とし、参考試料③について0,0.03,1,30KGYの4段階とした。
実験観察は、1)外観観察、2)反射分光スペクトル測定、3)光透過による観察、4)紫外線下での蛍光観察、5)ビッカース硬度測定、の5項目とし、①白色核は、3)を除く4項目、②アコヤ真珠短連は5項目行った。また、③ピンクガイ貝殻は、1)と2)の2項目のみ行った。①白色核については、照射後の核を80℃で加熱し褪色度合を観察した。

① 白色核
外観は、個々のばらつきはあるが10KGYからの黒褐色化の度合が大きくなった(図1)。分光スペクトルでも、照射量の増加にともない短波長側の反射率が低くなり、10KGYからは280nmの吸収が消失していき、100KGYでは可視波長全域で反射率が低くなった(図2)。

図1 放射線照射核

上段左より 0KGY,0.03KGY,0.3KGY,1KGY

下段左より 10KGY,30KGY,60KGY,100KGY

図2 核の分光反射率スペクトル

紫外線下では、未照射の核は青白色の蛍光が観察できるが、照射量増加とともに蛍光強度が小さくなり、10KGYで蛍光はほぼ消失した(図3)。
ビッカース硬度測定では、核の構造から測定方向による硬度の差があるため、層状構造に対し垂直方向2か所の測定とし各照射量3個ずつ測定し平均値を求めた。その結果、照射量増加とともに硬度測定値も大きくなり、核が硬くなっていくことがわかった(図4)。
最後に60KGY,100KGY照射した核2個ずつを80℃で15時間加熱したところ、若干の褪色が確認できた(図5)。

図3 紫外線下での核

上段左より 0KGY,0.03KGY,0.3KGY,1KGY

下段左より 10KGY,30KGY,60KGY,100KGY

図4 放射線照射量とビッカース硬度

図5 放射線照射核

上段 60KGY照射核 左:加熱前 右:加熱後

下段 100KGY照射核 左:加熱前 右:加熱後

② アコヤ真珠短連(30個)
放射線照射量が多くなるにしたがって着色度合は強くなり、真珠の色は1KGY以下がホワイト系、10KGY以上がブルー系と分類できる色となった(図6)。10KGY以上照射された真珠の真珠層には照射前に確認できなかった亀裂や細かなひびが発生し、品質劣化している真珠がみられた(図7)。その発生率は各々10%程度であった。

図6 放射線照射真珠

上より 照射量 0,0.03,0.3,1,10,30,60,100KGY

図7 放射線照射後 左:亀裂 右:ひび

分光スペクトル測定では、照射量の増加にともなう大きな変化はなく、可視光波長でやや反射率が低くなる程度であった。また、光透過での有機物の確認法も10KGYから判別が難しくなる傾向があった。紫外線下の蛍光は未照射の時、青白色から黄白色であったが照射量の増加とともに強度が小さくなり、10KGYでほぼ消失した(図8)。
ビッカース硬度測定は、各照射量3個ずつ3か所測定し平均値を求めた。核とは異なり放射線を照射すると硬度が小さくなる傾向があった(図4)。

図8 紫外線下での真珠

上より 照射量 0,0.03,0.3,1,10,30,60,100KGY

③ ピンクガイ貝殻
照射量が多くなるにしたがってピンク色が薄くなり、30KGYで色が消失しほぼ白色となった(図9)。

図9 ピンクガイ貝殻

上:照射前  下:左からブランク、0.03,1,30KGY

 

以上の結果から、核、真珠ともに放射線照射量による物性の変化は10KGYが分岐点となり、分光スペクトル、蛍光、ひびや亀裂などの劣化発生頻度が変化していることが確認できた。
核、真珠の硬度の変化については、その構造の違いなどの要因が考えられるが、今後の検証が必要である。