レポート

外観がアコヤ真珠と類似した小型有核淡水真珠の出現 ー 2023年宝石学会発表

近年、アコヤ真珠の取引価格は上昇傾向にある。その理由として中国市場における需要の増加、あるいは2019年頃より発生しているアコヤガイの大量斃死による供給量減少などが挙げられる。中でも細厘サイズの真珠は、入札会における取引価格が過去最高値を更新したとの報告もある。
アコヤ真珠の需要の高まりを背景に、市場では白色系でラウンド型、内部には養殖用の核が見られるなど、アコヤ真珠に非常によく似た淡水真珠が流通するようになった(図1)。これまで流通していた、形状がオーバル型の無核淡水真珠とは特徴が明らかに異なるものである。

図1 有核淡水真珠(サイズ3.5-4.0mm)

 

このような真珠の流通により危惧されるのは、誤ってアコヤ真珠として取引されることである。本発表ではこの点を踏まえ、上記の淡水真珠とアコヤ真珠の特徴の違いについてまとめたので報告する。
試料として、3.5-4.0mm淡水真珠連と4.0-4.5mmアコヤ真珠連を用い、観察分析を行った。

 

1、淡水真珠の特徴および判別
一般に流通する淡水真珠は、ヒレイケチョウガイを利用して中国で養殖されたものである。産出される真珠の色は、白、オレンジ、紫など(図2)で、外套膜にピースのみを入れる養殖方法のため、その多くは核を持たない“無核真珠”であることなどが特徴として挙げられる。また、「メタリック」などと呼ばれる金属光沢をもつ真珠(図3)が産出することも特徴のひとつである。

 

図2 淡水真珠          図3 メタリックなどと呼ばれる淡水真珠

 

鑑別機関における判別では、長波紫外線(365nm)照射下における蛍光の観察(図4)、真珠に含まれる微量元素であるMn(マンガン)、Sr(ストロンチウム)の検出など※1が一般的である。

図4 長波紫外線(365nm)照射下の淡水真珠(上)とアコヤ真珠(下)

 

※1 「真珠母貝の非破壊鑑別法の改良」田澤ら、2022年文化財保存修復学会発表
    Web版マルガリータ2022年6月22日更新

 

2、最近流通する有核淡水真珠の特徴
今回観察した試料において、外観はテリや色などの点においてアコヤ真珠に非常によく似ているが、養殖時に形成されるえくぼ等が非常に少ない印象であった。
その他のアコヤ真珠と異なる点として、成長模様の違い(図5)や、まきが厚く形成されている傾向にある(図6)ことなどに加え、真珠の孔口周辺が崩れて広がっている(図7)ものが多いことが確認された。

図5 淡水真珠(左)、アコヤ真珠(右)の特徴的な表面拡大画像(200倍)

図6 淡水真珠(左)、アコヤ真珠(右)のレントゲン画像

図7 孔口が崩れている淡水真珠

 

このような孔口の様子から、真珠層が他の真珠と比較して脆弱である可能性を考え、機器分析を行った。
電子顕微鏡による拡大観察では穴口部分に見られる結晶層の端が崩れているような様子が確認された(図8)。また、ビッカース硬度測定では、同サイズのアコヤ真珠および無核淡水真珠と比較して値が低い(表1)ことが確認された。

図8 淡水真珠(左)とアコヤ真珠(右)の孔口の電子顕微鏡画像(2,000倍)

 

表1 淡水真珠とアコヤ真珠、対照の無核淡水(7-8mm)のビッカース硬度

 

以上より、今回試料として観察した淡水真珠の真珠層は他の真珠と比較して脆弱である可能性が高いと考えられる。しかし、その理由は白色系の有核淡水真珠自体が持つ固有の特徴か、それとも加工が行われることによって脆弱化してしまったものであるかの特定まではできていない。
今後、そのような点も含め、情報を収集していきたいと考えている。