最近のシロチョウ真珠では、これまでには見られなかった特徴を持つものが流通するようになってきている。その事例の1つとして、加工されたアコヤ真珠で見かける加工キズのようなものが、シロチョウ真珠の真珠層表層部に見られる場合がある(図1)。
図1 シロチョウ真珠に見られる加工キズのような特徴(左)とアコヤ真珠の加工キズ(右)
また別の事例として蛍光の色の違いがある。シロチョウ真珠は、アコヤ真珠のようにシミ抜き等の加工が行われないため一般的に紫外線365nm照射下で黄色を帯びた蛍光が見られるものが多い。この蛍光の特徴は鑑別の1つの手がかりとして利用されている。しかし、最近ではシロチョウ真珠で黄色を帯びた蛍光ではなく、青白色の蛍光を呈しているものもある(図2)。これはシミ抜き等の加工が行われたアコヤ真珠に現れる蛍光の色と類似している。
図2 シロチョウ真珠の蛍光観察(左:黄色の蛍光 右:青白色の蛍光)
この2つの事例を踏まえると、これまで行われていなかった加工がシロチョウ真珠に行われるようになっていると考えられる。その中で今回は蛍光の色に着目し、実験的に無孔のシロチョウ真珠に対して一般的にアコヤ真珠で行われる加工(前処理、漂白)を行い、どのような影響が出るかを調べた。
1.試料
今回試料として、やや黄色味がかった白色系のシロチョウ真珠と、白色系のシロチョウ真珠の2個を用いた。未処理のシロチョウ真珠の入手が困難であったため、黄色い蛍光を示すなど加工されていない特徴に近い真珠を使用した(図3)。
2.方法と結果
試料真珠にアコヤ真珠で行われている加工を施し、その前後で以下の観察測定を行った。
①目 視 観 察 :目視による白味が増加(図3)
※紫外可視分光の結果より算出した黄色度(JIS K 7373:2006)は減少傾向
図3 目視観察(左:加工前 右:加工後)
②紫外可視分光:タンパク質の特徴を示す280nmの吸収が減少(図4)
図4 紫外可視分光の結果
③蛍 光 観 察 :黄色から青白色に変化(図5)
図5 蛍光観察(左:加工前 右:加工後)
④蛍 光 分 光 :励起波長280nmにおいて、蛍光波長330nmのピークが減少(図6)
図6 蛍光分光の結果(左:加工前 右:加工後)
上記の実験から無孔の状態でも真珠に加工の影響を与える可能性が考えられた。一般にアコヤ真珠の漂白は孔開け後に行われるため、開けた孔と真珠層表層部から漂白液が真珠の内部に浸透する。本実験では無孔のため漂白液の浸透は真珠層表層部からのみに限られる。そこで上述の真珠を切断し、その断面から無孔の状態でどの程度漂白液が浸透しているかを調べた。
⑤真珠断面の目視観察:真珠層が全体的に白色(図7)
図7 加工後のシロチョウ真珠断面
⑥真珠断面の蛍光観察:真珠層表層部からある程度内部までが青白色、それより深層部では
黄色の蛍光を確認。今回の試料では真珠層表層部から1/3程度が青白色の蛍光(図8)
図8 図7の蛍光観察
3.まとめ
真珠層表層部および切断面の観察、分析の結果より、今回の加工条件において、無孔の状態でも真珠層表層からある程度内部まで漂白液が浸透したと考えられる。
一般にアコヤ真珠ではシミ抜き等を目的とした加工が行われるが、シロチョウ真珠ではその必要が無いため、別の目的で加工が行われていると考えられる。ある加工業者では、シロチョウ真珠の白味を増す目的で加工を行うという。本実験において真珠層表層部の目視観察と黄色度が変化したことから、その効果が出ていると考えられる。
以上の結果から、アコヤ真珠に行われている加工が無孔のシロチョウ真珠に対しても影響を及ぼすことが分かった。