レポート

1927年製エンドスコープを用いた有核・無核真珠の観察 ー 2011年宝石学会発表

1. エンドスコープが作られた背景
我々は1927年にパリで売り出された、天然真珠と真円養殖真珠を鑑別する機器「パール・エンドスコープ」(図1)を入手した。

図1 1927年製エンドスコープ

 

1919年にロンドンの宝石市場に出現した真円養殖真珠(以下、養殖真珠とする)は、それまでの天然真珠では最高級品とされてきた「真円」で、価格も遥かに安く売りだされた。これに危機感を覚えた欧米を中心とした宝石商たちは、何とかしてこの養殖真珠を天然真珠と区別しようとエンドスコープをはじめ、様々な機器を考案している。
「GEMS」(ウェブスター著、砂川一郎訳、1980年日本語版)によると、以下のような危機が考案されたが、どれもがそれぞれの理由で満足できる結果が得られなかった。
・紫外線検査:長波長の紫外線下での蛍光を比べたが区別できない
・X線検査:当時のラジオグラフ法では核の発見と天然真珠の証明ができない
・ルシドスコープ:養殖真珠はわかるが、天然真珠の証明ができない
・パールコンパス:磁場を作り真珠が回るか観察したが、信頼度は低い
・バーロオメーター:真珠の穴に鏡状の針を入れ顕微鏡で観察したが、手間がかかりすぎる
そんな中で「エンドスコープ」は、「孔あけしてある天然真珠と養殖真珠を確実に鑑別するのに最も満足できる機器」とされている。

 

2. エンドスコープの原理
「エンドスコープ」は、天然真珠と養殖真珠の構造上の特性からその違いを見極めようとする機器である(図2)。
細いパイプに鏡が2面ついた「針先」と呼ばれる部品を真珠の孔に通し、真珠内部に光を投射する。その光が真珠の同心円層を通って外側に反射して一瞬の明かりとして見えるか、それとも核の真珠層構造により透過した光が上部から光条として見えるかを観察することで、天然真珠か養殖真珠かを鑑別する機器である。

図2 エンドスコープの原理

左:天然真珠(無核真珠)、中:養殖真珠(有核真珠)、右:原理図

 

3. エンドスコープの再生
当時の光学技術・工作技術の粋を集めて作られたエンドスコープだが、パリの骨董品店より入手した我々の機器は、光源であるカーボンアーク灯と「針先」が破損していた。
アーク灯はLEDランプに替え、0.5mmのパイプの中に鏡が2面付いている「針先」は、ステンレスで再現するのに約3か月を要した(図3)。

図3 エンドスコープの針先と模式図

 

4. 測定実験
天然真珠の代わりに真珠層が同心円構造をしている無核淡水真珠と、有核養殖真珠を用いて観察した。
「GEMS」の記述通り、無核淡水真珠はエンドスコープの顕微鏡側から一瞬の明かりが見え、有核養殖真珠は見事な光のすじが浮かび上がった(図4)。

 

図4 有核養殖真珠に見られた光のすじ、右:原理図

 

無核淡水真珠、5mm珠3個、7mm珠3個、9mm珠3個、計9個、有核養殖真珠、5mm珠3個、7mm珠3個、9mm珠3個、計9個を観察したところ、すべて無核・有核の鑑別が可能であった。
その他、放射線で核を黒変化させた養殖真珠、シャコガイ核を用いた養殖真珠は、どちらも針先からの光が真珠核を透過せず、有核養殖真珠の特徴は認められなかった。また変形の大粒南洋真珠も内部の観察はできなかった。
この変形大粒の南洋真珠を現在の最新技術である3DマイクロX線CTにて撮影した(図5)。真珠内部の空隙が大いため、エンドスコープの鏡面による光の反射や透過の現象がみられなかったことがわかった。

図5 観察試料(変形南洋真珠)のCT画像

 

5. まとめ
1919年の真円養殖真珠の出現以来、真珠内部に核が存在するかどうかは大問題であり、同心円構造かどうかを確認できたエンドスコープは、当時はとても信頼のおける鑑別機器であった。
その後淡水産無核真珠の養殖が行われるようになり、また放射線による核変色の養殖真珠など当時は存在しなかった養殖真珠が出現したこともあり、無核真珠で同心円構造であれば天然真珠であるとは確定できず、エンドスコープでの天然・養殖真珠の鑑別はできなくなってしまった。