レポート

アコヤ真珠のグレーディングについて - その実践的手法の現状と課題 ー2012年宝石学会発表

① はじめに
当研究所では、「PSLパールグレーディングシステム」に基づき5つの品質要素(テリ・キズ・面・かたち・まき)で判定を行っている。
テリを評価の中心に据え、全項目において最高位の評価に達した場合には、「最高品質の範疇」とする一種の「括る」という方式がとられている(図1)。

図1 品質要素の評価

 

② 品質要素「テリ」の判定
グレーディング判定基準の要となるのがテリである。
テリの判定には「2段式オーロラビュアーロング」が使用される。上の段にマスターパール、下の段に評価対象となる商品をおいて検査を行う(図2)。

図2 2段式オーロラビュアーロング

 

マスターパールとは、真珠をオーロラビュアーで観察した際に発現する干渉色が鮮やかなもの(1.0点)、明瞭なもの(0.7点)、僅かなもの(0.4点)、ほとんどまたは全然発現していないもの(0点)という順に組まれた連である(図3)。

図3 マスターパールとオーロラ画像

 

R系(ピンク系)、RG系(ピンクグリーン系)、G系(グリーン系)の3種類のマスターパールと比較し、その評価点数によって合否判定を行う。

評価点数システムには、1.0点から0点までの詳細が記載されており、これに基づいて全てのグレーダーが正しく評価するために、各点数の特徴を掴むよう日常的に訓練を重ねている。

 

③ 品質要素「実体色」の判定
図1の三角錐で土台の部分に位置するのが実体色である。
アコヤ真珠の実体色は、ホワイト系、ブルー系、クリーム系およびその他の色の3種類に分けられる。この実体色の判別材料としているのが、オーロラビュアーで観察した際に発現する「上半球の縁の色」である。クリーム系とホワイト系の上半球の縁を比較すると、クリーム系の珠には黄色が確認できる(図4)。

図4 クリーム系アコヤ真珠のオーロラ画像

 

さらに黄色と判別されたものに対して検査を行う場合に使用するのが「シリンドリカルレンズを使用した集光装置」である(図5)。この装置で観察すると、ホワイト系とクリーム系の実体色に明瞭な差があることがわかる(図6)。

図5 シリンドリカルレンズを用いた集光装置

 

図6 シリンドリカルレンズ上のホワイト系アコヤ真珠(左)とイエロー系アコヤ真珠(右)

 

また、ブルー系の判定にもこの集光装置を使用する。その際確認できる有機物に均一性がある場合をブルー系(最高品質特別呼称:オーロラ真多麻)、均一性が無い場合を「しみ珠」と判定している(図7)。

図7 シリンドリカルレンズ上のブルー系真珠(上)とシミ珠(下)

 

④ テリの点数化と価格の対応性
図8は上から卸売価格順に並べた5本の連と各々オーロラビュアーで観察した画像である。
5本の連を当研究所のグレーダーが点数化し、その平均点を価格指数と比較した(図9)。この場合、キズなどの評価が反映されているため、完全な一致とはならなかったものの、テリが商品価値に大きく影響しているため一定の対応があることがわかった。

図8 5本の連とそのオーロラ画像(右)

 

図9 図8の5本の連の価格指数(左)とオーロラビュアーによる評価指数(右)

 

⑤ 今後の課題
当研究所で行われているグレーディング方法において、2つの課題が挙げられる。
ひとつは、「ボーダー問題の解決」のため、評価の客観性をより精緻化する必要があるということ。特にテリについては、発現干渉色の目視評価をより精緻化するため、光源像の輝度分布測定の精度アップ、そして干渉色の機器による三属性測定などに取り組んでいる。
もうひとつは、すべての真珠を包含するようなシステムの再構築を図るという課題である。
現状はアコヤ真珠中心のグローバル化時代を迎えて、クロチョウ真珠、シロチョウ真珠、淡水真珠をも包含したシステムそのものの精緻化を図る必要がある。