レポート

ピンクガイを研磨したコンク・パールに似せた 模造真珠の判別についての考察 ー 2010年宝石学会発表

コンクパールはピンクガイ(Strombus gigas)の中にできる様々な色をした天然真珠である。その表面には、交差板構造に起因する「火焔模様」(flames)とよばれる模様が見られる(図1)が、その希少性からピンクガイ貝殻を削った模造コンクパールも存在する。今回、天然コンクパールと模造コンクパールの構造と表面観察から、その相違点を観察し判別法を考察した。また、ピンクガイの部位によってどのような模造コンクパールができるかを実際に製造しその構造と表面観察を行った。

図1 コンクパールの火焔模様

 

ピンクガイは、アラゴナイトの細長い結晶が一定の角度で交互に配列している“交差板構造”からなる。天然コンクパールの断面は、中心から放射線状の柱状構造がみられ(図2)、この構造によって真珠表面には「火焔模様」が現れる。しかし貝殻を削って作られた多くの模造コンクパールの表面は平行模様であり(図3)、色素濃淡の縞が確認できるものもある(図4)。

図2  左:コンクパール断面、中:同構造のホースコンクパール断面、右:ホースコンク断面画像の拡大

 

図3 ピンクガイ貝殻を削って作った模造真珠表面(左)と交差版構造模式図(右)

 

図4 色素の縞が見えるピンクガイ貝殻を削った模造真珠

 

次に、貝殻の色素の濃淡の無い部位、湾曲部位を削った模造コンクパールを作り観察した。その結果、単色部の模造コンクパールでは、やはり表面は平行模様であった。また、湾曲部を削った模造では、観察する方向によって構造が違うことが観察できた(図5、6)。

図5 ピンクガイ貝殻中心部を削って作った模造真珠

 

図6 ピンクガイ貝殻中心部の断面

 

したがって、天然コンクパールと模造コンクパールを判別するには、
① 色素濃淡の縞目模様はないか。
② 表面は平行模様ではないか。
③ 観察方向による構造の違いは見られないか。
という点を観察する必要がある。
これら構造の違いは、軟X線観察(図7)、紫外線蛍光観察(図8)、によってより明確に確認できる。

図7 コンクパールの軟X線画像、同心円状の構造が確認できる

 

図8 紫外線照射下のコンクパール(左)と模造真珠(右):フレーム模様と平行模様が強調される

 

なおコンクパール・ピンクガイの色素は40度以上の加熱で褪色することが報告されている。また今回の観察過程で、蛍光X線、軟X線検査を長時間行うと紫色に変色する可能性があることがわかった(図9)。検査にあたっては注意が必要である。

図9 軟X線照射箇所が紫に変色したピンクガイ貝殻片