1989年、真珠科学研究所として宝石学会で第1回発表
「イケチョウガイ貝殻内面の色沢と淡水真珠色沢の相関性についての研究」
イケチョウガイの貝殻内面を概観すると幾つかの興味ある現象が認められる。
ひとつは内面の部位による色調の違いである。縁部の白色に対し中央部は淡赤紫色を呈し、さらに靭帯、蝶番線に近づくにつれ黄褐色を帯びてくる。
いまひとつは前部先端部が全く干渉色を有しないのに対し、後部先端部は美しい虹色の干渉色を出していることである。
論者等はこの貝殻内面の淡赤紫色、黄褐色が何に起因して起こるのか、また両先端部の干渉色の有無の原因について、貝殻表面、断面を顕微鏡等で観察してみた。
同時にイケチョウガイ外套膜切片(ピース)を使って産出された淡水真珠の中から、淡赤紫色、黄褐色の色調を有すもの、光沢の良いものと悪いものを選びだし、貝殻同様顕微鏡等で観察、それぞれの相関性を考察してみた。
結果は以下のとおりであった。
1.貝殻先端部の光沢の有無は積層結晶板の厚さの違いによる。
2.同様のことは真珠の光沢の有無にもいえる。
3.生産者の経験によれば、この光沢がない部位に該当する外套膜部は、ピースとしても、ピース挿入部位としても良質の真珠ができないとされている故、イケチョウガイ固有の形質であることが推定しえる。
4.貝殻、真珠とも淡赤紫色はコンキオリン中の固有色素によるものと思われる。
5.真珠層中に生成した稜柱層によるものと思われる。
6.真珠層に断続的に生成するこの稜柱層帯はイケチョウガイのひとつの特長で海水産の貝殻にはあまり見られない現象である。
また今回の観察によればこの稜柱層帯の出現と淡赤紫色の分泌に深い相関があるように思えるが詳細は今後の研究課題としたい。
「真珠母貝の貝殻外面(稜柱層)の色調と貝殻内面(真珠層)の色調の相関性についての研究」
真珠母貝のうちクロチョウガイとアコヤガイの2種について、貝殻稜柱層部の色素と真珠層部の色素
の相関を分析した。
分析は貝殻薄片を作製し、主として顕微鏡観察によって行った。
結果は以下のとおりであった。
1.クロチョウガイ貝殻内面を、稜柱層部、真珠層黒色部(ブラックリップ)、真珠層白色部に大別する。
稜柱層部とブラックリップ部には明らかに色素の連続が認められた。また、その色素の色調は黄褐色であった。
2.ブラックリップ部は常に稜柱層部に隣接した位置にあり、稜柱層部の伸長に伴いブラックリップ部は真珠層白色部に覆われる。白色部と稜柱層との間には色素のつながりは認められない。
3.アコヤガイ貝殻外面には様々な模様がある。今これを便宜上生産者呼称による、“黒”“茶”“赤”“旭”“色違い”の5種に分ける。
それぞれ貝殻内面の稜柱層部と真珠層部の境界付近を薄片化して観察してみると、両者の間に色素の連続は認められなかった。
4.“赤”のサンプルについて黄色色素の連続が僅かながら認められた。
これは稜柱層の中のひとつの色素である黄色色素は真珠層部と連続するというとらえ方もできる。
しかし論者等はこの黄色色素は貝の生理的変動により非恒常的に産出されるものであり、偶々“赤”のサンプルに認められたと推定している。