<接触キズ(“当たりキズ”)と削り珠>
1. 接触キズ
「・・・特別に作って頂いたケースに真珠製品を収納していたのですが、真珠にキズがついてしまったのです。ケースのどこかにぶつかってできたと思うのですが、判定して頂きたいのです・・・」(ユーザーからの質問)
<見解>
① 真珠は他の宝石類と比べますと硬度が低いので(図1)、「貴金属や宝石などの硬いものとの接触は避けること」は真珠の手入れ原則のひとつです。
図1 宝石の硬度表
② 微小な傷は、それが接触でできたものか、養殖によるものなのか肉眼やルーペではわからない場合があります(図2)。こういう場合顕微鏡拡大が決め手になります。図3に見られますように、真珠層を構成する結晶層が、鋭利な物質により削り取られている様子が一目瞭然だからです。
図2 真珠のキズ
図3 図2のキズの拡大画像
③ ただし本例のように、ぶつかった物の判定となると非常に難しいですし、さらに故意にぶつけたかどうかの判定となると不可能と言ってよいでしょう。
2. 削り珠
20年余も前のことです。不思議な白蝶真珠に出会ったことがあります。多面形のバロック珠なのですが、ところどころの面が乳白色を帯び、しかも透明に見えるのです。
宝石学会での発表テーマにすることにし、学生たち※とその不思議さの解明に取り組みました。結論は“削り珠”だったのです。
この真珠の世界では、突起や変形珠をバフで該当箇所を削り取り、ラウンドに加工する習慣があるのを後から知りました。まきが厚いからそういう習慣が出来たのでしょう。
※1年間かけて、真珠の体系的知識を学ぶ「アカデミーコース」の受講生たちを指す
① 強い光をあてて見ますと(サーチライト法と言って、光の角度や真珠との距離を上手く調整する必要があります)、乳白色を帯び、しかも透明に見える箇所があります(図4)。この箇所が削られた所です。
図4 サーチライト法で見た削り珠(左側が乳白色に見える)
② これは、真珠層を部分的にでも削り取りますから、削られた箇所は、表面ではなく断面になるため、光の表面反射、内面反射は起きずに、乱反射だけになるわけです。それが乳白色に見える理由です。
このことは光学顕微鏡拡大で、結晶層の断面がかすかなレベルですが確認できることで証明されます(図5)。
図5 図4の真珠の乳白色部拡大
※内容および画像は当時のまま