<内部に稜柱層を持つラウンド系真珠(略称「内部稜柱真珠」)
「・・・アコヤ真珠だと言われて入手した珠なのですが、テリも良く、きれいなラウンド形で、全体が赤紫色をしていて、サイズは10ミリあるのですが、何か透明感が弱く、濁っているような感じなのです。本当にアコヤ真珠なのでしょうか、調べてください」(一読者より)
1. 結論
この真珠はアコヤ真珠です(図1)。ただ普通の真珠と較べると、かなりの厚さで稜柱層が同心円状に巻かれており、表層だけ真珠層が巻いている、真珠層内部構造の違いにあります(以下この真珠を内部稜柱真珠と呼ぶことにします)。
図1 当該真珠
2. 詳細観察
2-1:顕微鏡による表面拡大
100倍に拡大して表面を観察しますと、結晶成長模様が、人間の諮問のように見えますから普通の真珠と何ら変わりはありません。
2-2:サーチライト法
強い光をあてて観察しますと、普通の真珠は、赤や緑の干渉色(透過の)がライトの光の周りに見えてきますが、内部稜柱真珠には干渉色は現れません。そして表面に粘土板のような模様が見えています(図2)。
図2 強い光を当てた当該真珠(左2個)と普通の真珠(右)
2-3:光透過法
強い光を底部にあてて内部を見る光透過法では、この内部稜柱真珠はほとんど光透過はせず、暗く見えます(図3)。
※このタイプで有機物が真珠層の下に均一にあると、光不透過のため、放射線照射真珠と間違えた判定をする場合がありますから注意して下さい。
図3 光透過法で見た内部稜柱層真珠
2-4;オーロラ効果の観察
テリが良ければ、内部稜柱真珠の下半球にはきれいな干渉色の縞模様が現れます。しかし普通の真珠と異なるのは次の2点です(図4)。
① 上半球に干渉色が全然現れない。
② オーロラ効果(下半球干渉色)にまだら模様が点在している。
図4 オーロラビューアーに乗せた内部稜柱層真珠
3. 構造と成因
図5に構造模式図を示しました。真珠内部に稜柱層が異常発達し、表層部に真珠層が僅かに存在する真珠です。何故このように稜柱層が発達したのか、理由は推定ですが、外套膜切片(ピース)全体の変質です。強い刺激を持つ薬剤にピースが接触して変質したか、あるいは切り出した後の放置時間が長時間にわたったため腐敗が始まったといったアクシデントによるものです。
ピースは強い刺激を受けると、真珠層の分泌から稜柱層への分泌に変性する傾向があります。この真珠の場合、長時間の変性の後、浜揚げ直前になって正常に戻り、真珠層を分泌したのです。
図5 内部稜柱層真珠の断面模式図
4. 耐久性
サーチライト法などで子細に観察しますと、小さなひびが発生しているのが見える場合があります(図6)。稜柱層は、乾燥で容易にわれを起こします。ですからこの内部稜柱真珠は短期間でわれを起こします。本来商品にしてはいけない廃棄扱いの真珠です。
図6 内部稜柱層真珠に現れたひび
※内容、画像ともに当時のまま