一般にアコヤ真珠は挿核時期に関わらず、12月~1月に浜揚げされる。その理由は、この時期に真珠は赤みが差し、テリが良くなるという現場の経験によるものと考えられる。また、この時期には炭酸カルシウムの結晶が、きれいな平面で大きなものが形成されるという報告もある(図1)。
図1 季節変化による結晶成長の変化<和田,国立真珠研究所報告 vol.16;1972>
今回、浜揚げ時期における真珠の品質について、具体的にどのような要因が関係するか調べた。着目した点は“グリコーゲンの保持量”と“生殖巣の成熟度”(図2)である。
図2 左:母貝のグリコーゲン(矢印)、右:母貝の生殖巣(赤丸)
調査は2019年9月~2020年3月までの6か月間、同一時期に挿核した母貝を毎月一定数の浜揚げを行い、貝の状態およびその貝から採取した真珠の状態の相関を調べた。
その結果、母貝のグリコーゲンの保持量および生殖巣の成熟度は冬に向けて増加する傾向にあり(図3,4)、それに伴って真珠の品質も良くなる傾向にあった(図5)。また、それ以降の時期には、グリコーゲンの保持量および生殖巣の成熟度は低下し、それに伴って真珠の品質も低下する傾向にあることが確認できた。真珠表面を拡大して観察すると(図6)冬に向かい成長模様が整然となり、2、3月では、表面が荒れて成長模様が乱れた真珠が多くなっていった。
図3
図4
図5 浜揚げ月別 真珠の輝度平均値
図6 浜揚げ月ごとの典型的な真珠の表面
今回の調査より、グリコーゲンの保持量および生殖巣の成熟度と真珠の品質には一定の相関があるものと考えられる(図7,8)。しかし、自然環境や母貝の血統による真珠形成能力の違いなどの影響も考えられるため、今後さらにデータの蓄積を行い、関連について継続して調べて行く予定である。
図7 母貝のグリコーゲン評価と産出真珠の輝度値
図8 母貝の生殖巣の成熟度と産出真珠の輝度値