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コラム

パールジャーナル ー 香港への懸念

日本でも報道されていますが、香港の混乱が収まりません。地上波では「裏」の取れた情報や、香港政府や警察などの正式発表を元にした情報しか報道されていませんが、ツイッター等のSNS上では違う意味(暴力的過ぎて)で報道されない映像や画像、疑惑などが多数紹介されています。疑惑に関してはさすがに「疑惑」の域を出ないのですが、それでも多くの若者が死亡していることは事実の様子。6月から規模が拡大したこのデモ活動ですが、民主派が掲げる5つの要求を香港政府が受け入れる可能性は極めて少なく、落としどころが見えない状況です。
当然経済活動には大きな影響が出てきています。デモ開始以来、4000億円を超える預金が香港から引き出されているといった報道がありました。また、警察やマフィアの暴力行為に加担したとして、地下鉄の駅が毎週末に攻撃されており、日常の経済活動にも支障が出ています。吉野家や元気寿司、一風堂など日系企業であっても、運営が香港企業で親中国派である場合は攻撃対象に。もちろん、ファーウェイ製品等中国製品を展示している商店、バンク・オブ・チャイナなどの銀行への破壊行為も継続しています。
そんな香港へ、6月と9月のジュエリーフェア出展のために行ってきました。6月は200万人(主催者発表)が参加する大規模なデモがフェア直前に開催されていましたが、全体的にまだ穏便で平和な状況。6月のフェアは展示会場が香港行政府やワンチャイ警察署の直ぐそばで影響が懸念されましたが、道路封鎖などの混乱を多少受ける程度で、来場者数にも大きな影響はなかった様子でした。しかしその後、7月には元朗駅でのマフィアによる暴行事件と警察の鈍い対応に批判が高まり、地下鉄などへの破壊行為、エアポートエクスプレス(空港と市街地をつなぐ特急)の運行妨害、空港での妨害行為などデモ活動が過激化。9月のフェアの時期には状況が一変していました。この状況に主催者であるインフォーマ・マーケッツ(旧UBM)も危機感を抱き、無料のホテルの部屋を来場者の為に1万室用意。さらには無料のシャトルバスを市内、空港、あるいは中国本土からも準備していましたが・・・
来場者数は昨年の約54000人から26%減の約4万に(主催者発表)。しかも昨年は台風の直撃でフェアの期間が短かったことから、比較対象としては2017年の59000人が適切なのかもしれません。特に中国人からの来場者が一番数を減らしたと主催者は発表しています。108社が出展したAWE(空港サイドの展示場)のジャパン・パール・パビリオンへの影響は甚大で、売り上げは「昨年の半分」や「70%ダウン」といった声は珍しくない状況でした。日本貿易統計によれば、今年の上半期(1-6月)、水産物の輸出において真珠はホタテを抜いて1位に。その額は約183億円でその輸出先の87%(159億7千万円)が香港という事実に背筋が凍るような思いがします。
香港は自由貿易港であり商品の出し入れが非常に簡単、さらには中国本土へのゲートウェイとして、真珠業界の香港依存がこれほど高かった時期は過去にはありません。その最高に重要な場所での動乱。11月末には、規模は小さいのですが、次の宝飾展が控えています。催涙ガスが漂う街で真珠が売れるのか?今後の香港がどうなるかは別として、香港以外の市場開拓が急務となってきているのは確かなようです。