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コラム

パールジャーナル ー アコヤ真珠価格の適正化

先日、秋のIJTに出展しました。会話のメインはあこや真珠価格の上昇であったと思います。今年の8月以降、全体的に価格は最低3割、流通業者によっては4割上昇したとの見解もあります。この上昇の理由については後で記述しますが、IJTでは「そんなに値上がりしたら扱えない」と不満や不快感を表した来場者もいました。このリアクションに違和感を覚えるのは筆者だけか?この違和感の理由も含めて、今回はあこや真珠価格の推移を説明してみたいと思います。
先ず価格上昇の理由について。1.パンデミックの終息、2.好調な輸出、3.入札会のズレと品不足、4.貝のへい死問題の4つが挙げられると思います。8月には東京だけで1日の感染者数が5千人を超えていましたが、今では50人以下となっています(11月13日現在)緊急事態宣言も全国で解除され、経済が動き始めたことがやはり大きいと思います。実際に「売れている」、「売れていない」はここでは無関係。期待が価格に大きく影響するのはいつの世であることかと。輸出は今年に入ってから好調です。7月の輸出実績は金額で前年度比188%増、8月も77%増となっています。
「入札会のズレ」とは、例年12月―3月に開催されていた浜揚げ入札会が、コロナ禍によって今年は3月―6月に。通常であれば、10月ぐらいから加工が仕上がって市場に出てきていた真珠製品が、今年は3か月遅れるという事態に。当然、年末まで品薄にあるということです。そして、いまだに原因が特定されていない貝のへい死問題。この問題が、あこや真珠の増産の不可能性を示唆しています。増産がないのであれば「値段の急激な下落はない」と安心して価格上昇についていけるロジックになります。
さて、今年のあこや真珠の生産量は共販実績で2634貫。共販実績とは入札会を通して販売された数値という意味です。入札会以外にも「示談」と呼ばれる養殖業者と真珠メーカーとの直取引もありますが、そんなに多くはありません。共販の2~3割程度の量ではないかと推察されます。平均匁単価は2961円。あこや真珠の平均匁価格がこれまで一番高かったのは1990年代前半です。バブルの残り香と「プリンセス紀子」のブームに沸いていたころです。1990年は生産量18756貫で平均単価は4720円(農水省:漁業・生産統計年報より)この30年、デフレに苦しむ日本経済でありましたが、物価は上昇しています。さらに、淡水真珠や黒蝶真珠のように、生産量が増えているなら値段の下落は理解できますが、生産量は6分の1ですよ!この間、ダイヤモンド、色石、地金などすべて数倍の値段上昇です。IJTにおける接客での、筆者の違和感は理解していただけたでしょうか?
この結果、1990年に2112あった養殖業者が、現在では600程度にまで落ち込みました。生産規模の縮小は、その産業のハードウェアの供給にまで影を落としています。核から穴あけ機まで、生産と供給網がぜい弱になってしまいました。「値段がここで上がって何が悪い!」と、叫びたくなるのは筆者だけではないかと。「養殖真珠は養殖業者の涙」と表したのはミキモトの松月清郎氏。自然を相手に戦っている養殖業者が、そろそろ報われても良いと思うのですが・・・