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コラム

パールワンダー5 ー 米国副大統領と「真珠をつけよう」運動

少し時間が経ってしまったが、2021年1月20日のカマラ・ハリス氏の米国副大統領就任を祝うため「就任式に真珠をつけよう」(Wear Pearls on Jan 20 2021)という運動が起こり、その急速な広がりを「ニューヨーク・タイムズ」紙や「日本経済新聞」などが報じていた。真珠に関する事柄なので簡単に紹介しておこう。
ハリス氏は米国史上初めて女性の副大統領に就任した人物。ジャマイカ人の父親とインド人の母親から生まれたため、有色人種やアジア系としても初の副大統領である。カリフォルニア州の司法長官を務めた後、同州の上院議員となった。特定のファッションのスタイルをトレードマークにしている政治家や企業経営者は少なくないが、ハリス氏も彼女のアイコンとして真珠やパンツスーツを愛用してきた。公式行事に真珠のネックレスを着用することが多いという。こうしたことから彼女の副大統領就任を前にして、真珠をつけてその日を祝おうという動きがアフリカ系女性を中心に全米各地で広がった。「ニューヨーク・タイムズ」紙によると、2020年12月初めにフェイスブックで始まったWear Pearls on Jan 20 2021は、1週間で3万人、4~5週間で43万人のメンバーを獲得したという。
ハリス氏が真珠のネックレスを愛用しているという記事は時折出るが、私が面白いと思ったのは、みんなで真珠をつけて女性の副大統領就任を祝おうという草の根運動の方。「ニューヨーク・タイムズ」紙によると、Wear Pearls on Jan 20 2021のメンバーのある女性は、毎日真珠をつけて、就任式の日が来るのを心待ちにしているという。「フェイスブックで真珠をつけた人たちの真珠の思い出を読むのが好き」と語る人もいれば、一緒に何かをしているという連帯がいいと述べる人もいる。副大統領の就任式に真珠をつけるという目的だけでなく、その行為を人々がお互いに連携して楽しむようになったのである。
そういえば、かつて東京都庭園美術館で「メディチ家の至宝」という展覧会が開催された時、真珠を着用していけばチケット価格が割引になった。私も真珠のネックレスをつけて美術館を訪れたが、展覧会の作品だけでなく、他の人が真珠をつけているのを見るのも楽しかった。真珠着用による一体感っていいなと思ったが、そのようなことが米国副大統領の就任式に起こったのである。ハリス氏は期待にたがわずウィルフレド・ロサドの真珠のネックレスをつけて就任式に臨み、Wear Pearls on Jan 20 2021 はUnited by Pearls (真珠でつながろう)と名を変えて今も続いている。真珠をつけることによる連帯感。日本でもこのような運動が広がって、日常がもっと彩られればと思っている。