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コラム

パール・ワンダー2 - 大航海時代は真珠の隠匿から始まった?

大河ドラマ「麒麟がくる」では、室町幕府13代将軍足利義輝や松永久秀など、これまであまり語られてこなかった人物が次々登場して、面白い展開だった。日本では、彼らが活躍した16世紀を戦国時代と呼んでいるが、世界史的には大航海時代と呼ばれている。実は、この大航海時代と日本の真珠は、当時の日本人も気づいていない深い関係があった。
コロンブスが大航海に出る前にスペインの国王夫妻と結んだ契約書では、「真珠、宝石、金、銀、スパイス」がもっとも望まれている物品だった。真珠が冒頭に来ることに注意しよう。西回り航海では、最初に現れる国が日本となる。その日本は、マルコ・ポーロの『東方見聞録』によって、真珠と金の産地として知られていた。つまり、コロンブスの航海の予定では、まず日本に到着し、そこで真珠と金を獲得することだった。
残念ながら、コロンブスは1492年の航海では日本に到着できず、真珠も発見できなかったが、1498年の航海でついに南米ベネズエラで真珠を発見した。ベネズエラの海域にはアコヤ真珠貝が生息していたのである。コロンブスは、先住民から大量の真珠を獲得したが、スペイン国王夫妻にはわずかな量の真珠しか献上しなかった。つまり、コロンブスは真珠を隠匿したのだった。後にこのことがばれると、コロンブスは真珠をくすねたと多くの人から非難されるようになり、不遇の時代を迎えることになる。
一方、ポルトガルではバスコ・ダ・ガマがインドに向かって出航した。彼は、到着した土地の人に見せる真珠の見本を持っていた。航海目的のひとつは真珠であり、コショウだけではなかったのである。1498年、ガマはインドのカリカットに到達。実は当時のカリカットは名高い真珠の取引地だった。しかし、ガマがポルトガルに持ち帰ったのは、スパイスばかりで、真珠は出てこない。ガマはカリカットで真珠を買わなかったのだろうか。それとも、コロンブス同様、隠匿したのだろうか。こちらは、いまだに歴史の謎となっている。
それにしても、大航海時代の立役者のコロンブスとガマが、ともに真珠を隠し、あるいは隠したかもしれないのは、なかなか興味深いことである。そもそも宝を発見した場合、黙っているのが人類の定石。こうしてきわめて人間臭い形で始まった大航海時代は、ヨーロッパ人の真珠の執着によって激しさを増していく。日本の戦国武将が群雄割拠し、お互いに戦っている間に、日本の真珠を求めて始まった大航海時代は大きく動いていたのである。