レポート

宮城県女川産アワビ養殖半形真珠について ― 2024年宝石学会発表

1896年御木本幸吉氏によってアコヤで始まった半形真珠の養殖は、1900年代後半にアワビ養殖半形真珠生産の試みへとつながった。

日本のアワビ半形真珠の養殖で、現在は養殖が行われていないが宮城県女川町のアワビ養殖半形真珠の歴史は「女川町誌」(1960年)にみることができる(図1)※1。1957年頃、宮城県女川町尾浦湾で小松金市氏が養殖に着手した。また、当時の養殖の様子は「日本の水産 真珠」※2にその画像がある(図2)。その養殖方法は、採取したエゾアワビに外側から孔を開け、そこに半形プラスチック核を入れ、貝殻の成長に伴って真珠層が形成されるという工程であった(図3)。
※1 女川町役場によると、アワビ真珠養殖の記録は、2011年東日本大震災の被災によりほとんど残っていないとのこと
※2 「日本の水産 真珠」1989年全日本水産写真資料協会

図1 女川町誌(1960年)

図2 当時の養殖の様子(「日本の水産 真珠」より)

図3 養殖された半形アワビ真珠の貝殻

 

また、長崎県五島列島小値賀島でも1983年クロアワビによる半形真珠の生産が始まったが、小値賀島役場によるとコストの面などにより2004年頃から生産は休止しているとのことである。

海外では、1997年からニュージーランドのトーリー海峡にある南島のマールボローサウンドとバンクスペニンシュラでヘリトリアワビによる半形真珠の養殖を始められ、現在も流通している。その他の国でもアワビ半形真珠の養殖を行っていたとの情報があった。

二枚貝はプランクトンを餌として採取して成長するが、アワビはコンブなどの海藻を餌としており、摂取する海藻の種類によって貝殻に鮮やかな色調が生まれている。また、アワビの真珠層構造は、巻貝特有のブロック状構造であり、アコヤガイなどの二枚貝の真珠層構造とは積層の仕方が異なっている(図4)。表面を拡大観察するとその違いが確認できる(図5)。アワビ半形真珠にはこのような特徴が見られる。

図4 左からアワビ真珠層断面、アワビ真珠層模式図、シロチョウガイ真珠層断面、二枚貝真珠層模式図

図5 女川産アワビ真珠の表面拡大(500倍)とマベ半形真珠表面拡大(200倍)

 

このように巻貝であるアワビでは、二枚貝のように半形真珠が養殖されている。特に「マベ」という貝で養殖される「マベ養殖半形真珠」は、数多く流通している。そのため半形真珠を総称して「マベ」と呼んでしまうことがあるが、(一社)日本真珠振興会、 (一社)日本ジュエリー協会、 (一社)宝石鑑別団体協議会は「近年、母貝の種に限らず養殖半形真珠を“マベ”と呼称されているが誤称である」としている。
日本におけるアワビ養殖半形真珠は、鹿児島で生産しているとの報告もあり、今後の効果的な養殖法の確立に期待したい。